▶ 2011年8月号 目次
政権交代第二幕論~これからの二年を考える~
陸井 叡
菅政権が迷走している。
千年に一度とされる巨大地震と大津波。安全神話に守られていた原子力発電所のメルトダウン。これらがもたらした広大かつ壊滅的な被災地。そして超長期にわたるとみられ、しかも広範囲に拡散してゆく放射能被害。震災から五ヶ月。民主党政権の対応は、未熟さを曝け出したままだ。
だが、この政権の未熟さは、そのスタート当初から変わらない。2009年9月の衆議院選挙で自民党が惨敗、民主党が大勝して、党代表だった鳩山由紀夫氏が首相の座についた。
政権交代の第一幕が切って落とされた。
ところが、鳩山政権は、のっけから日本外交の基軸、日米関係とくに米軍沖縄基地移転問題で大きくつまずいた。未解決のまま9ヶ月、2010年6月には退陣してしまう。
しかし 次に舞台にあがった菅直人首相も、中国との深刻な対立に巻き込まれる。
2009年9月7日、日本が実効支配している尖閣列島の沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突、漁船の船長が逮捕された。問題解決へ向けて菅首相の強力なリーダーシップは、ほとんど見られなかった。
日米、日中という日本の外交・安保問題の最大テーマで姿勢が定まらない二人の首相をみる国民の多くが「民主党政権に果たして国を運営して行く能力があるのだろうか」という危惧の念を抱いたとしても不思議ではない。
そして 民主党政権は3月11日をむかえる。
ともかく、原子力発電所周辺の住民の避難計画の立案・実施、自衛隊のの原発対策へ投入等、政府としての災害対策は進めたものの、本格的な復興計画とその財源対策はほとんど実現していない。そんな中、なんと6月2日、国会に菅内閣不信任決議案が提出される。
だが民主党内の小沢グループが菅首相不信任に同調する動きを見せる中、菅首相はひとまず辞任の意思を表明することで窮地をすり抜けてしまった。
辞任の時期ははっきりしない。そこへつけこむかのように菅首相は意欲的に「3.11対策」を次々に打ち出し始めた。キーワードは反原発である。今大衆に何が一番アピールするかを鋭く嗅ぎ分ける社会運動家、菅直人の面目躍如たるものがある。
ところが 民主党内では、やる気まんまんの菅首相をよそに9月には民主党代表選挙を実施して菅首相に変わる新しい代表を選ぼうとする動きが活発だ。
これが実現すると菅首相が辞任して新しい代表が民主党政権をリードする筈だがこれまでの政権の実体から察して、いったい何が期待出来るのだろうかという疑問がわく。
菅首相さえ交代すれば自民党は復興関連法案に賛成するという見方も出ている。ただし、自民党の条件は法案を早期に成立させ直ちに解散総選挙を行うというものになりそうだ。
これに、民主党は簡単に応じる訳にはゆくまい。すでに国民から寄せられたかっての熱い思いを事実上、裏切ってしまった民主党に選挙での勝ち目はないに等しいからだ。
あとほぼ2年の衆議院議員の任期いっぱいまで解散をさけ菅首相から次の首相へ、そして、もし政権が何かに躓いても次の民主党の首相へとリレーしてゆく。まるで、自民党の末期政権と同じことをして行こうしているのではないかという観測さえある。「あと2年」は、民主党政権の生命維持装置なのだろうか。
菅政権は今後10年で23兆円、このうちの8割18兆円余りを5年以内に被災地に投下して復興を急ぐことを決めた。しかし、法案としての成立の目処はついていないうえ、財源もはっきりしない。
このままでは原発問題も復興対策も、解決へ向けて大胆に動きそうもないという閉塞感が今や被災地にさえ漂う。
この閉塞感を打開するには思い切って菅首相による解散・総選挙という劇薬も考える時かもしれない。おそらくエネルギー政策が最大の争点となるだろう。原発をめぐっては事実上の国民投票となるのもしれない。そして多分、民主党も自民党も今の姿では残るまい。誰も読めない政界再編とそれに続く政権交代第二幕の始まりかもしれない。
とかく、政権に執着するだけが目的とみられがちな菅首相だが意外に歴史に名を残す事になるかもしれない。
(ジャーナリスト 陸井 叡)