▶ 2012年1月号 目次
貿易立国日本との別れ ~TPPへの疑念~
ジャーナリスト 陸井叡
日本にとって、2012年は昨年に続いて、いや、それ以上に難しい年となるかもしれない。
舵取りをまちがえると日本は経済一流国から二流国へと落ちてゆく第一歩を踏みだしてしまうかもしれない。
2011年3月11日、東日本大震災で日本経済は、東北3県を中心に大きな打撃を受けた。
特に、3県に展開していた自動車など日本の主要な製造業の部品工場が生産ストップに追いこまれ、その影響で、アメリカをはじめ世界中に散らばる日系工場も操業停止する所が多くでた。
大震災直後のTV映像は、そうした部品工場だけでなく、ほとんどあらゆるものが大地震で破壊され、大津波で流されてしまったあとの風景、空洞化した広大な表土を繰り返し映し出していた。
そして、昨年12月はじめ、トヨタ自動車の2011年9月期の決算発表の席上、小沢哲副社長は「(トヨタ車の)特定の部品(電子部品)の生産は国内は、すでに空洞化している。輸出立国を国是としてきた(自動車)産業が危機にさらされている」とのべた。トヨタ以外の自動車各社からも決算に関連して「もはや日本は材料を輸入して製品を輸出してゆく拠点ではなくなった」等の発言があいつだ。
こうした中、財務省は先月21日、2011年は輸出額から輸入額を引去った貿易収支が31年ぶりに赤字になるという見通しを明らかにした。その理由として財務省は、東日本大震災で工場が被災、輸出向けの自動車、家電などが作れなかった事、そして、円高をあげた。
さて、TVなどでは、今の円高について"歴史的”という表現をよく使う。円相場がこれまでの最高値の水準にあるという意味かとおもわれるが、"歴史的”という表現は、まるで今の円高が"突然”出現したというようにもとれる。実は、円相場は、統計を見ると、1975年頃から対ドルで上昇(円高)が始まっている。 そして、とくに1990年からの20年余りをみると、円はドルに対してだけでなく、他の主要国の通貨に対しても値上がりしている。
つまり、今の円高は、何も"突然”やってきた訳ではなく、少なくともこの20年余りをかけて今の水準に達した。重要な事は、其の20年余りの間に日本の経済構造、とくに「輸出立国という国是」が、事実上、崩れ去ってしまったという点だ。
東日本大震災は、衝撃的な形で東北3県の空洞化をみせた。しかし、日本では既に多くの地方で輸出企業が去ることなどで、雇用が消えてゆく空洞化が長い時間かけて進行していた。"空洞化対策”が急がれるところだが、いまの政治に其の危機感は希薄だ。
環太平洋経済連携協定・TPPへの参加の意向を、昨年10月、当時の菅首相が唐突に表明、今の野田政権もそのまま引き継いだ。
TPPは、アメリカ、ベトナムなど8カ国で「関税の原則0%」を目指す等とする自由貿易圏構想だが、何故か、日本政府だけでなく経済界も、そしてマスメデイアまでもが推進一辺倒のようにみえる。
しかし 既に明らかなように、日本経済の軸足は貿易ではなくなりつつあり、関税の原則0%は、もはや必ずしも日本のメリットではない。いやむしろ、日本は、TPPを構成するアメリカをはじめ8カ国の全てが一次産品の輸出大国である事を警戒すべきだ。8カ国へ向けて日本から輸出するものは必ずしも多くはない。もしこのまま参加すると、TPPは日本にとって"不平等条約”となりかねない。
空洞化する日本に目を凝らしても、後を埋める新しい姿が必ずしも見えてこない。やはり、これからの日本は、外需より内需の充実へと舵を切るべき時にきている。例えば、自然エネルギー産業などを育てて、内需の拡大(経済成長)を実現して雇用を確保する時ではないか。
2012年、世界経済は下降局面に向かう。とくに、不況感が強いアメリカはオバマ大統領が再選を狙って、TPPをはじめとする自由貿易とドル安を強力に推進し、日本などへ必死の輸出攻勢をかける構えだ。これに対して日本は先ず、しっかりと国内を立て直さないとやがて"不毛の国”へと一歩を踏み出すことになるだろう。
陸井 叡(ジャーナリスト)