▶ 2012年4月号 目次
北朝鮮の“新情報戦略”とメディアの対応く
畑山 康幸(朝鮮文化評論家)
北朝鮮=朝鮮民主主義人民共和国の金正恩が最高指導者の地位について100日が過ぎた。4月には朝鮮労働党代表者会が開かれ、党総書記に就任するのではないかと観測されている。
日本の新聞各紙は、朝鮮中央テレビが3月に入ってからニュースに若い女性キャスターを登場させたり、背景をさわやかな色合いに変更した、と伝えた。各紙は金正恩「新体制での雰囲気の刷新」、故金日成主席の生誕100周年にむけた「祝賀ムードづくり」のねらいがある、と韓国・聯合通信を引用して分析している。
日本で北朝鮮の公式情報を入手するには、ラジオをモニターしているラヂオプレスの配信記事を利用したり、『労働新聞』、『民主朝鮮』といった新聞、それに月刊誌などを購読する方法がある。ところが最近、北朝鮮がインターネットを対外宣伝手段として活用し始めたことから、情報入手の環境は劇的に変化している。
韓国で出版されたソン・スンソプ著『北朝鮮資料の収集と活用』(韓国学術情報2011)には北朝鮮情報を発信している32のインターネットサイトが紹介されている。<自主平和民族団結>、<民族通信>、<統一学研究所>、<白頭ネット>、<祖国統一21>、<朝鮮中央通信>、<ネナラ(わが国)>などである。
これら北朝鮮情報を発信しているサイトのなかでもっとも重要なのは、党機関紙<労働新聞http://www.rodong.rep.kp/>のホームページであろう。北の日々の動きのほか、党、政府、諸団体の政治的メッセージを把握するには欠かせないし、国際問題に対する北の見解や文化情報についての動向も知ることができる。
筆者が<労働新聞>とともに、重視しているのは<わが民族同士http://www.uriminzokkiri.com>という朝鮮語によるサイトである。これには、金正恩の動静を始めとして、朝鮮中央通信、朝鮮中央テレビ等の報道が日々更新されている。とりわけ朝鮮中央テレビのニュースや番組は動映像で翌日にはアップされており、特別な衛星受信設備がなくとも視聴できるのが特徴である。
<わが民族同士>は表向き祖国平和統一委員会が運営している体裁をとっている。祖国平和統一委員会は朝鮮労働党統一戦線部の傘下にあるとみられる組織である。統一戦線部は、北主導による朝鮮半島の統一をめざして、韓国の社会団体や海外在住朝鮮人組織に対する工作活動を行っている機関である。
まず、これらの報道自体、その真偽を確認することが難しい。日本では、メディア各社が自主的に取材論評しており、報道内容にはそれなりの違いがある。しかし、北朝鮮の場合は朝鮮労働党の指導=統制(検閲)を受けるため、メディアによって報道内容や姿勢に大きな違いはない。
第2に北朝鮮の報道は党の主張や見解を伝えるのが目的であり、語りたくない事実は報道されない。肯定的現実は伝えても、否定的な事実は通常報道されないのである。
また、これらの報道は全体として朝鮮労働党の世界観を反映している。
韓国における親北左派勢力のアメリカ批判、日本批判、李明博大統領批判のほか、反政府集会などを熱心に伝えるなどの偏りが目につく。つまり、<わが民族同士>や<労働新聞>などの情報を活用するためには、批判的立場からの接近が必要であり、伝えていない事実やその背後にある意図をあわせて検証することが重要である。
朝鮮中央テレビがニュースの演出を一部変更した、と聯合通信が伝えたのは13日であった。しかし<わが民族同士>を見ると変更が行われたのは3月10日である。つまり<わが民族同士>を見ていれば、翌日にはこれを確認できたはずである。一般のネットユーザーと聯合通信や日本の新聞各紙に、北情報の入手に関して今や差がないのである。
問題の核心は、朝鮮中央テレビがニュースの演出形式を変更したことが、金正恩体制における報道姿勢の変化を意味するか、という点にある。3月10日のトップ・ニュースは、ルーマニアで金正日の著作が出版されたことやメキシコの新聞が金正日を讃えた記事を掲載したというものであった。つまり、従前からのニュース基準とオーダーに基本的な違いはないのである。しかし、日本の各紙はこうした点にまで踏み込んで報道をしていない。
だれもがニュースソースに接することができるインターネット時代に、通信社の記事を<コピペ>して伝えるだけでは、時代の本流を読み解く事はできない。それだけに第一線の記者には、独自の視点をもった、密度の濃い報道が望まれる。
畑山 康幸(朝鮮文化評論家)