▶ 2012年5月号 目次

もう一つの地殻変動(2)~橋下市長の役割~

橋本 大二郎(前高知県知事 早稲田大学大学院客員教授)


 橋下市長に期待することはただ一つ、現在の中央集権の仕組みを改めて、わが国を、国と地方の役割を分けた、分権型の国に変えていくことだ。そう言うと、また地方分権の話かと思われるかもしれないが、地方分権という言葉はもう使わない方がいい。なぜなら、地方分権というと多くの人は、国と地方との間での、権限のぶんどり合戦と受けとめるが、国と地方の役割を分ける本当の意味は、そんなつまらない争いごとではないからだ。
そうした地方の視点からの改革ではなく、むしろ地方という荷物を肩からおろして、身軽になった国が、本来立ち向かうべき戦略的な課題に力を集中するために、分権型の国づくりが必要なのだ。  少し考えてみても、人口の構造が激変する中での、社会保障や雇用の制度のあり方をはじめ、経済のグローバル化に立ち向かうための産業構造の転換、さらには、原発事故によって表面化した、エネルギーの制約への対応など、国が取り組むべき戦略的な課題は枚挙にいとまがない。
 そんな時に国が、特別養護老人ホームの廊下の幅は、何メートル以上ないといけないとか、幼稚園の階段の幅は、何十センチ以下でないといけないといった、地方の細かいことに、手を出したり口を出したりしている暇はない。そのような、地方に出来ることは地方に任せて、国は本来取り組むべき仕事に力を集中していく、そうした分権型の国に変わらない限り、この国は、厳しい国際競争を生き抜いてはいけない。
 ところが、民主党からも自民党からも、そうした危機感や問題意識がまったく伝わってこない。例えば、東日本大震災の復興にあたっても、東北の三県をモデルに、道州制の州を先取りした、一国二制度を実施するといった構想が、なぜ出てこないのかともどかしく思うが、既成の政党にはそうした発想は皆無だから、補助金を使う復興策しか頭に浮かばない。このため、復興のための増税を唱えて財源を作ったら、次には、政・官・業のトライアングルの中で、補助金をたれ流すことしか考えつかない。これでは、仙台の夜の街の復興にはなっても、東北の復興にはつながらない。