▶ 2012年7月号 目次
私のテレビドラマ論② 伝統と革新~50年を超える「朝ドラ」と「大河ドラマ」~』
浅野 加寿子(NHK放送博物館館長)
「連続テレビ小説」通称“朝ドラ”。その出演者たちを見ると、今映画、テレビ、舞台で活躍する女優たちがいっぱいだ。新人女優を誕生させ、育てた枠として大きな成果を収めているといえよう。最近は、既成の女優たちの起用が続いていて、新人の成長を視聴者が応援するという楽しみがない。連続テレビ小説の第1作は昭和36年(1961)放送の「娘と私」。テレビ本放送開始から8年後のことだった。新聞小説のテレビ版という発想でスタート。2作目「あしたの風」から月曜から土曜の8時15分から15分の放送となって長い間変わらなかった。一時視聴率が低迷していたが、2年前(平成22年)の「ゲゲゲの女房」から放送時間が朝8時からと48年ぶりに変わり、今の「梅ちゃん先生」(第86作)へと好調である。秋からは「純と愛」そして第88作「あまちゃん」と続く予定。
「青春家族」などダブルヒロインの作品、「ロマンス」など男性主人公ものもあった。時代の風を反映しながら作家、飛行士、写真家、新聞記者などを目指して頑張るヒロインを描いてきた。時にはマイナス思考の頑張りすぎないヒロインも登場しているが、その変化球はなかなか視聴者の心に届いていない。テレビの使命の一つは「明日のエネルギー、勇気を持ってもらうこと」であるから、やはり、“朝”は目的に向かって努力する路線がよいのではないだろうか。私のプロデュース作品、第56作「あぐり」は明治生まれの洋髪美容師の半生記であったがそのモデルは吉行あぐりさん。97歳まで現役の美容師として仕事をし、間もなく105歳。お元気という近況を伺ってこちらも大いに元気になった。
連続テレビ小説スタートの2年後(1963)に映画に負けないドラマをということで大河ドラマ「花の生涯」がスタート。今放送の「平清盛」は第51作で、大河ドラマ放送50年目の作品。視聴率はかなりの苦戦(6月3日関東11.0%、関西9.2%)であるという。
「平清盛」は放送開始直後、兵庫県知事の「汚い」という発言が話題になった。これは土ぼこりや衣装の汚さというより画面が鮮明でなく見にくいということではないかと思う。
「龍馬伝」「江」「平清盛」はプログレッシブカメラを使って映画のフィルムの様な映像を狙っているのだが、ハイビジョンの高画質、高音質とは逆行するのではと思う。またリアリティーを追求するためにとあえてコーンスターチをカメラ前にまいたり、照明を逆光にしたり、色を抜いたりしているがそれはリアリティーとは違うだろう。
光化学スモッグもなかっただろう平安時代そして江戸時代は空気も澄んでいて遠くまで見通せたのでむしろ画面はくっきりさせるのがリアルに近いのでは……。紗をかけたような映像は誰の台詞かわからず複雑な人物関係を余計わかりにくくしている。
あの時代を再現するというのは不可能だし言葉も当時のままというなら理解できないのではないだろうか。時代劇は昔の再現ではない。現代のメッセージを盛り込んだ現代を写す鏡が大河ドラマのコンセプトだろう。また過去の出来事だからセピア色なのだという発想も陳腐だ。私はかつて回想シーンもなるべくセピア色にしないように演出者に言っていた。
「龍馬伝」はカット割りのない演出が話題になったが、視聴者が心を動かさない前に出演者が涙を流していたように、必要なカットがなく、映像のモンタージュの魔法がきかなかった。自由にのびのび演技させるのは良いが、ある意味で演出不在といえる番組だったと思う。斬新だとマスコミの話題にはなったが、視聴率は後半伸びなかった。違うことをやりたいという制作者の意気込みが逆の効果になってしまった例だろう。
各自治体による大河ドラマの誘致が盛んだが、それが強いから作品が決まるということはない。が、舞台となる御当地の経済効果は大きい。「利家とまつ~加賀百万石物語~」の場合石川県金沢城公園で開催された「加賀百万石博」は289日の会期で156万7683人の入場者があり石川県786億円、富山、福井県を加えると1246億円の経済効果があり(日銀金沢支店調べ)、地元経済の活性化に大きく貢献したようだ。来年の「八重の桜」は会津藩に生まれた女性が主人公。福島、東北への復興へのメッセージになることを制作者たちは望んでいる。
今まで同じ時代、人物を描いても常に視点を変え革新をしてきた結果の50年の歴史が大河ドラマの伝統を創ってきた。大河ドラマはこれかも現代の鼓動を伝えながら歴史の中の日本人の生き様、人間ドラマを描いていってほしい。連続テレビ小説、大河ドラマともに良い意味で制作者の挑戦が限りなく続き、視聴者に新しい思い出と感動を作っていってくれることを期待したい。
浅野 加寿子(NHK放送博物館館長)