▶ 2012年8月号 目次
若者はどう動いたか~橋下圧勝の大阪市長選挙~
山形良樹 (1973年卒 元NHK記者)
ネット上でリアルタイムにつぶやくことができるツイッター、そのつぶやきを見るために登録する人・フォロワー数が約80万人と、有名タレント並みの人気を誇るのが大阪市の橋下徹市長だ。橋下市長のブレイン・慶應義塾大学の上山信一教授は「世代格差を是正するために若者に2票を与える。あるいは参議院を若者の権利保護をチェックするための議会とするべきです」と著書で訴えており、去年11月の大阪市長選挙では、橋下陣営が、若い年代ほど利用率が高いとされるツイッターを積極的に使って、情報発信したのは有名な話だ。ツイッターは、若い人達の投票行動に影響を与えたのだろうか。
橋下・維新の会旋風が吹き荒れた去年の大阪市長選挙では、投票率が前回選挙を17.31ポイントも上回る60.92%と、同じくダブル選挙(大阪府知事選との同日選)だった昭和46年の61.56%以来40年ぶりに50%を超えた。全体として日本の投票率が低下傾向にある中で、都市部の首長選挙としては、異例の高さだった。久々のダブル選挙となり、連日マスコミに大きく取り上げられたことも投票率を押し上げた要因と考えられるが、もともとダブル選挙は、国政レベルでも高い投票率を記録する傾向にある。史上初となった昭和55年6月の衆参同日選挙は、大平首相が急死して弔い選挙になったこともあり、衆参とも74~75%台の高い投票率となった。2回目は61年7月で71%だった。ダブル選挙では投票率が上がり、浮動票に依存する政党に有利であり、組織票に依存する政党に不利であるという見方が一般的だ。ゆえに浮動票とも無党派層とも言える人達の支持率の高い橋下氏が、投票率をあげるためにダブル選挙を仕掛けたと言う研究者もいるが、在阪のジャーナリストは「結果的にダブル選挙になったのであって、投票率を上げて自分に有利にしようという意図は皆無だった。維新の会、支援者の一致した意見だ」と話している。しかし本人が意図しなかったにせよ、ダブル選挙で投票率が上がったことが、結果的に橋下氏に有利に働いたことは否定できない。
大阪市選挙管理委員会は、先ごろ、この大阪市長選挙の投票行動の調査結果を発表した。大阪市選管は、従来から全市規模の選挙終了後、有権者の約5%を対象に、年齢別の投票行動を追跡調査している。調査対象の抽出に当たっては、24の各区すべてで、その区の当日有権者数の5%に近い投票区を抽出し、その投票区における投票行動を年齢別に分類している。(大阪市選管作成のグラフ参照)結果は、20歳以上24歳以下の年齢層の投票率が35.15%と最も低く、その後年齢が上がるにつれて投票率も上昇し、70歳以上74歳以下の年齢層が78.44%とピークになっている。この傾向は、前回・前々回と同様で、各年齢層で前回投票率を上回っている。今回の投票率と前回の投票率の差を年代別に見ると、20代16.6、40代17.6、50代17.0、60代12.6となっているのに対して、30代は20.8と、唯一20%を超えて上回っているのが特徴だ。
愛知学泉大学の三船毅准教授によると1980年ごろを境に20代、30代の若者の投票率が他の世代に比べ相対的に低下していることが指摘されている。こうした傾向に関わらず、大阪市長選挙では、30代の投票率が、40代や50代と比較して3ポイントほど高くなったことに注目したい。
毎日新聞の出口調査では、年代別では20代、30代の7割が橋下氏を選び、40代~60代でも6割が支持した。橋下氏は、今回の選挙戦で20代、30代の若い人達に投票を呼びかけた。ツイッターの効果は不明だが、結果的には橋下氏の戦略は一定の成果を挙げたと言えよう。
日本の明日を担う20代、30代の若い人達の投票率の低さが日本の抱える問題の一つである。少子化の影響で若者の絶対数が減る中で、このままでは、若い人の声に耳を傾けるよりも高齢者に受ける政策を訴えたほうが、票が取れ、当選しやすいということになってしまう。若い人達が投票所に足を運び、その投票行動が選挙結果に影響を与えることになれば政治家の目も若い人達に向かうだろう。橋下氏が圧勝した大阪市長選挙でその兆しが見えたと考えたい。
山形良樹 (1973年卒 元NHK記者)