▶ 2012年9月号 目次
「毅然さ」と「したたかさ」で領土を守れ
木村 良一(産経新聞論説委員)
だれもが子供のころに経験していると思うが、勇気を出していじめっ子を怒れば、その後いじめられなくなるものだ。ただ黙っていじめを受けていると、いじめっ子は攻撃をエスカレートさせてくる。理不尽ないじめには、毅然たる態度が効く。
竹島(島根県)と尖閣諸島(沖縄県)の一連の領土・領海問題でも同じことがいえる。「主張すべきことは主張する」との態度で臨むことが重要である。
8月24日夕、野田佳彦首相は記者会見を開き、「日本の主権に関わる事案が相次ぎ、誠に遺憾の極みだ。毅然とした態度で冷静沈着に不退転の覚悟で臨む」との決意を述べた。首相による領土・領海に関する記者会見は異例で、中国、韓国、ロシアを強く牽制するとともに日本の主張の正当性を国内外にアピールできたと思う。
野田首相は竹島については「歴史的にも国際法上も日本の領土であることは何の疑いもない。韓国は力を持って不法占拠を開始した」と民主党政権の首相として初めて「不法占拠」という言葉を使って批判し、「国際社会の法と正義に照らし、国際司法裁判所の法廷で論議を戦わせ、決着を付けるのが王道だ」と語った。
すでに日本政府は国際司法裁判所に提訴する手続きに入っている。韓国が拒否して裁判が開廷されなくとも、国際社会に韓国の不当性を訴える絶好のチャンスだ。
尖閣諸島については監視体制の強化や、香港の市民団体による不法上陸事件で海上保安庁が撮影したビデオ映像を原則公開することを示した。
国会(衆院)も同じ24日、本会議で韓国の李明博大統領の竹島上陸や天皇陛下訪韓をめぐる謝罪要求発言に抗議する決議を民主、自民、公明などの賛成多数で採決した。同様に香港の市民団体が尖閣諸島の魚釣島へ不法上陸したことを非難する決議も採択された。
そもそも竹島は江戸時代初期に漁業基地として領有権を確立し、1905(明治38)年に明治政府によって公式に日本領土として閣議決定された。しかし戦後の1952(昭和27)年、韓国の李承晩大統領が竹島を韓国側に取り込んだ漁船立ち入り禁止線(李承晩ライン)を通告。警備隊を常駐し、灯台を設置するなど不法占拠を進め、李承晩ラインを越えた日本漁船を次々と拿捕した。
65(昭和40)年の国交正常化で李承晩ラインは廃止されたものの、その後も韓国は自国の領土(韓国名、独島)として主張し、不法占拠を続けている。
一方、尖閣諸島は1884(明治17)年ごろから日本が漁業などを行ってきた。95年には明治政府が日本の領土に編入する閣議決定を行い、民間人に無償貸与した。戦後はサンフランシスコ講和条約に基づいて米軍の施政下に置かれ、1972(昭和47)年の沖縄返還で現在の日本の地権者に譲渡された。
1969年に周辺海域に豊富な石油資源が眠っている可能性が出てきて中国と台湾が、尖閣諸島の領有権を主張し始めた。中国にとっては海軍が太平洋に進出する重要な拠点にもなる。
竹島は不法に占拠されているが、尖閣諸島は日本の海上保安庁や海上自衛隊が警戒に当たり、領海侵犯を取り締まっている。
ここで大切なのは、国民ひとりひとりが竹島も尖閣諸島も日本固有の領土だということを認識することだ。そのためにも義務教育の中で子供たちにしっかりと竹島と尖閣諸島の歴史について教えていかなければならない。
韓国は年末の大統領選を控え、李明博大統領の求心力が低下している。李大統領個人が法的に非難される問題もあると聞く。中国はこの秋に指導部が大きく入れ替わる。ここで注意しなければならないのが、韓国や中国の現政権が国民の反日感情を利用して政権維持を図ろうとしている点だ。
韓国は大統領が替われば、竹島問題が多少は静かになることが予想される。それゆえ、たとえば李明博政権に限って経済制裁をとることも検討すべきだろう。外交で大切なのは、こうしたしたたかさである。
中国は尖閣諸島の平和的解決を内外にアピールする一方で、巡視艇や漁民による領海侵犯を常態化させ、ときには活動家の上陸で日本の実効統治を弱体化させている。ひと筋縄ではいかない手ごわい相手だ。
こうした韓国と中国から竹島と尖閣諸島の領土・領海を守るには、毅然さとしたたかさがものをいう。
(産経新聞論説委員 木村良一)
◇おことわり 産経新聞の社説とは違い記者個人の考えを書いたものです。