▶ 2013年5月号 目次

旅と人間 ―― ローマ、そして女王、シチリア島へ ―

山岸 健


 いずこにおいても人生を旅している人びとは、宇宙空間と大地においてさまざまな環境やトポス、場所、ホドス、道を体験しつづけている。ふたつのギリシア語によって照らし出される時間と空間、人間の姿、人びとの動きや行為がある。
 トポス τóπo ς という言葉には場所、ところ、位置、家、部屋、坐席、集落……さらに墓地などという意味があり、ホドス ὁδó ς というギリシア語には旅、旅程、道、道程、比喩的な意味だが、方法、生き方、行為などという意味がある。このふたつの言葉は、明らかに人生や日常生活そのものであり、人間の生活と生存の様相そのものだといえるだろう。さまざまな旅と旅する人間は、こうしたトポス、ホドスという言葉に凝縮されているのである。
 旅とは人間の生存圏の拡大と深化であり、みごとな世界体験の方法なのだ。
 大地や環境を整えて、意味づけて、独自の個人的世界や共同の世界、人と人との触れ合いと交わりが可能な世界、社会的世界をかたちづくること、築きつづけることは、人間の責務であり、使命なのである。
   トポスとホドスがしっかりと結ばれた大地の片隅、定点がある。それは<広場>だ。家や家屋もそうしたところだが、公共的な<広場>は大切なトポスであり、ホドスだ。道が広くなったところ、道の結び目、道の集合点、それが<広場>である。
 イタリアのシエナにはカンポ広場、イル・カンポがあり、ローマにはヴァンティカンのサン=ピエトロ広場やナボナ広場がある。
 イタリアを旅したおりに私たちは、ある時、このナボナ広場Piazza Navona に近いホテル Hotel Raphal Romaに投宿したが、朝、昼、夕、夜とさまざまな時間帯においてベルリーニのバロック彫刻の噴水で名高いナボナ広場の光景と人びとの動きと姿などを体験することができた至福の家族旅を思い出す。家族と家庭こそ人生の旅びと、人間の生活と生存の核心であり、記憶と思い出、希望と期待の中心的なトポス、ホドスなのである。