▶ 2013年6月号 目次

安倍政権まもなく半年 ~それは幻影なのか実像なのか~

陸井 叡


安倍政権が6ヶ月目に入った。 そして、そこまで5ヶ月余り東京証券取引所でぐんぐん上昇していた日経ダウが5月23日暴落した。その日の夜、東京・丸の内の中華料理店で著名なエコノミストを囲んで財務官僚、銀行家、ジャーナリストが小さな会合をもった。
エコノミストは、アメリカの中央銀行FRBに在籍した経験を持ち、又、中国の要人ともパイプを持つ人物だった。この日は、暴落の引き金の一つ日本国債の価格急落とその仕掛人と見られるアメリカ系の投資ファンドの動き、更にもう一つのきっかけ、中国経済の不調が話題の中心だった。もし、更に円安が進んでファンドの戦略が成功すると国債価格の暴落が連鎖を呼んで大量の国債を持つ日本の銀行の経営不安、金融危機に繋がる恐れも現実味を帯びて来たという警告がエコノミストからあった。このシナリオは、日本の国際収支構造からみて有り得ないとされていた事態だ。ファンド側に付け込まれるスキが生まれた。
安倍政権は発足間も無く財務省では傍流と見られていた黒田東彦氏を日銀総裁に抜擢した。黒田氏は、巨額のマネー供給がデフレを止めてインフレを呼び、それが経済成長をもたらすという信念の持ち主で、安倍首相の思考形態にピッタリと嵌ってしまった。黒田日銀が市場に供給したマネーはまず、株式市場に、そして、外貨ドル買いへと向かい株の暴騰、急激なドル高・円安の局面となった。デパートでは高級品が売れ、東京都心では高額のマンションが売れだした。確かにインフレが始まったようだ。
しかし、ふと気がついてみると、生活実感として経済成長がスタートしたとはとても思えないという庶民が多いのではないか。夏のボーナスは自動車業界を除くと多くの業界が1%以下、もしくは減少となった(経団連まとめ)
又、円安で伸びるはずの自動車輸出は、相変わらず減少している(自動車大手8社の4月実績)
そして、貿易赤字も拡大している(財務省国際収支統計・2012年度末)
こうした中、安倍政権は成長戦略を打ち出していると主張する。しかし、成長の実績は勿論、その実像すら未だはっきりと国民にみえてこない。