▶ 2013年7月号 目次

韓国大統領の歴史認識とは~日韓の間に横たわる深い溝~

畑山 康幸


韓国のパク・クネ(朴槿恵)大統領は日本に「正しい歴史認識」を持ち「歴史を直視」するように求め、それが日韓関係の基礎であると強調してきた。イ・ミョンバク(李明博)前大統領の竹島(韓国名:独島)上陸で悪化した日韓関係は、新政権の発足から半年を経過しても、「歴史認識」がネックとなり、首脳会談開催の展望すらみいだせない。
 パク大統領が言う「正しい歴史認識」とは、大統領がもつ歴史観であり、教科書などを通じて韓国で広く流布している歴史像である。日本による侵略と受難、それへの抵抗・独立運動が韓国の描く近代史であり、日本は加害者で韓国(人)は被害者というものである。
 解放後の韓国で、歴史は国民統合=アイデンティティー形成の重要な柱であった。このため「韓国併合条約が合法的に結ばれ、日本は朝鮮において農業や工業を発展させたほか、大学を設立するなど教育にも力をいれ、近代化に貢献した。日中戦争・太平洋戦争では朝鮮人も志願兵として戦場におもむくなど日本に協力した」といった近代史像は、仮にそれが事実であっても、決して受け入れられないのである。
 このような「誤った歴史認識」は、国家としてのアイデンティティーをゆるがしかねないうえ、韓国人の“自尊心(=プライド、メンツ)”を傷つける“妄言”であるため、大統領は「正しい歴史認識」を強調するのである。
 韓国で日本との歴史問題が起きたのは、1980年代に日本の教科書が侵略を進出に書き改めた、という報道がきっかけである。韓国はその後も靖国参拝問題、閣僚の朝鮮統治関連発言、慰安婦問題などで日本を非難、謝罪や補償を要求してきた。
 韓国で歴史問題が外交問題=政治化する背景には、冷戦の崩壊や“民主化”の進展、さらには韓国のグローバル化も深くからまっている。
 韓国では近年、歴史的事件に対する再評価=「歴史清算」が進められてきた。朝鮮戦争時の民間人殺害、南朝鮮労働党(共産主義政党)の蜂起を鎮圧する過程で多くの死者が出た済州島4.3事件などがそれである。冷戦の崩壊や“民主化”によって左派勢力が権力を背景に、タブー視されてきた事件の真相究明や関係者の名誉回復をはかったのである。
 イ・ギフン教授(韓国・木浦大学)は、昨年出版された『脱冷戦史の認識』(ハンギル社)で民主化の結果、「韓国社会全般の歴史認識に大きな変化が生じ」、「歴史を人権の次元において接近できた」と指摘した。歴史を、史料にもとづいて分析し真実を究明するのではなく、“人権”を基準として判断するようになったというのである。