▶ 2013年9月号 目次

「臨床研究のデータ改竄」と「美白化粧品の被害」 背景に規制の甘さがある

木村良一


 高血圧治療薬の臨床研究データ改竄と、肌がまだらに白くなる美白化粧品の被害。この2つがここ最近、大きな医療問題になっている。片方は医薬品で、もう一方は化粧品とその対象は違うものの、問題の本質は同じだろう。どこがどう同じなのか。そこを分析しながらあらためて薬との付き合い方を考えてみたい。
 製薬会社ノバルティスファーマの「ディオバン(商品名)」=成分名・バルサルタン=に関する臨床研究で、論文に使われたデータがディオバンに有利なように操作されていた。これが今回の臨床研究データの改竄だ。臨床研究を行った京都府立医大が7月11日に「データが操作されていた」と調査結果を公表、その後30日には東京慈恵会医大も同様の発表を行った。
 データは他の製薬会社の高血圧治療薬よりも脳や心臓の血管障害に効果があるように操作されていた。この改竄データをもとにした論文は、ノ社の宣伝に活用され、ディオバンの年間売り上げは毎年1千億円以上に上った。
 幸いなことにディオバンの降圧剤としての効果には問題はなく、副作用も出ていない。しかし服用を続けてきた患者の信頼を裏切ったことは間違いない事実である。
 この問題では、ノ社が臨床研究をうまく宣伝に利用したことになる。臨床研究は①薬事法上の規制が厳しい治験と違って規制がない②あるのは研究者や製薬会社のモラルに頼った倫理指針だけだ③厚生労働省にも届ける必要はないうえ、費用も治験の10分の1以下と格安だ-からである。
 少しややっこしいので、ここで補足説明をしておく。治験は製薬会社が新薬の製造販売承認を得るため、実際にその薬を患者に投与して安全性や有効性を調べる臨床試験で、臨床研究の方は本来、医学や薬学の進歩を目的に医師主導で進められる。
 今回の臨床研究をめぐっては、ノ社が臨床研究を実施した5大学に総額11億円以上もの奨学金を提供していたことが明らかになったほか、ノ社の社員が臨床研究を実施した京都府立医大など5大学の臨床研究のデータの統計解析に参加していたことも判明。研究の中立性に疑義が生じる利益相反の疑いがある。
 厚労省は大臣直轄の検証委員会を設置し、臨床研究の規制など再発防止の検討に乗り出したが、治験と臨床研究の違いに問題の本質があるようだ。