▶ 2013年10月号 目次
日本・ニュージーランド 震災復興における民意の行方
中島みゆき
東日本大震災から2年半を迎える9月、同じ年の2月22日にマグニチュード6.1の直下型地震により185人が死亡したニュージーランド、クライストチャーチを訪れた。災害から街は、人々はどう立ち上がろうとしているのか。行政と住民との関係はどのようになっているのか。ほぼ同時期に大きな地震に襲われた2つの被災地を歩きながら考えた。
■進まない解体
クライストチャーチの市街地を歩いてまず驚くのは、壊れたビルが多数、建ったままになっていることだ。カンタベリー地震復興庁(CERA)によると、取り壊し指定されたビルは約1000棟。うち、8月末現在に取り壊されたビルは約5%。保険会社との交渉が難航しているなどの理由で、すべてのビルが取り壊されるまで最低で1年はかかるという。
クライストチャーチ地震の特徴は、市街地を襲った直下型地震という点だ。ほとんどの犠牲者が建物の倒壊によって命を落としている。訪問時に市街地で開かれていたアートフェスでは、被災前の生活や亡くなった方々の人物像など、地震の記憶を留めようとする写真やインスタレーションが展示されていた。
クライストチャーチでは市中心部約1平方キロが「レッドゾーン」に指定され、居住や一般車両の通行ができなくなっている。中心部にもコンテナ製のショッピングセンターはできているが、日常品の買い出しなどは郊外の大型店に車で通う人が多い。人々の暮らしは落ち着いているように見えるが、都市のまん中にぽっかり穴があいたような状態が続いていることに、少なからず衝撃を受けた。
■強いリーダーシップ+住民対話
復興は進んでいるのか進んでいないのか。住民の意思は反映されているのかいないのか。復興当局CERAのトップ、ロジャー・サットン(49)を訪ねた。
CERAは日本の復興庁にあたる組織だが、土地収用や建物の解体指定など、強大な権限を一元的に持っている。クライストチャーチでは2010年9月にも大きな地震が起きており、その際の対応が遅れた反省から、被災直後の4月にCERAが設置された。トップのロジャーは民間電力会社からの起用。長身でエネルギッシュ、早口だがわかりやすい言葉で話す。
直前の8月末、CERAは市街地の土地利用計画を発表した。図やイラスト、写真をふんだんに盛り込んだ計画書はCERAのホームページに掲載されたほか、市役所や公立図書館でも閲覧できた。東北と比べれば決して広くない地域の土地利用計画策定に2年半もかかるのかと意地悪く尋ねると、答えはこうだった。
市の中心部復興にCERAは、住民からアイデアを募る「シェア・アン・アイデア(share an idea)」プロジェクトを実施した。市の人口の4分の1にあたる約10万件の案が寄せられた。これを分析し、「緑地」「低層ビル」「買い物」「交通」などのテーマに沿って検討を重ね原案を作成。これまでに100回ほどワークショップ(住民説明会)を開催した。「住民参加を重んじた。とにかく話し意見を聴く。もちろん賛成者ばかりではないが、あらゆる場、あらゆる機会に説明し、対話するようにしている」とロジャーは話す。
実際クライストチャーチの街を歩くと、その場所がどうなるのか描いたパネルが設置されていたり、市役所や公共図書館には土地利用計画のほか交通や商店街、高齢者対策などテーマごとのパンフレットが多言語で用意されていたりする。ホームページも被災した人に使いやすいデザインで構成されている。
■誰のための復興か
ひるがえって日本はどうか。確かに被災地では区画整理や防潮堤建設など、事業ごとの住民説明会は開かれている。しかしほとんどが実質的には計画の説明であり、参加した人は「意見を言う雰囲気ではない」という。地域の全体像を住民の声をもとに描き実現を目指す試みもボランティアの建築家らにより行われているが、あくまで善意の持ち出し仕事であり、対応できる地域数には限りがある。
地震の規模も政治状況も異なるニュージーランドと日本を比べるのは適当でないかもしれないが、誰のための復興か、基本姿勢に違いがあるように思う。建物の解体についても、なかなか進まないニュージーランドと、公費解体の期限を切って地域の文化に根ざした建物や古民家が次々壊されてしまう日本。社会構造が根底から違うように感じた。
まちは人々の生活の基本であり記憶の基盤でもある。次の災害に備える意味でも、少なくとも復興プロセスに誰もが参加できるように仕組みを整える必要があるのではないか。地域再建のために必要なコミュニケーションの課題を整理することが急務だと考える。
中島みゆき(毎日新聞記者)