▶ 2013年11月号 目次
大阪に東京スカイツリーをしのぐ新名所
七尾隆太
人気が高い東京スカイツリータウン(東京・墨田区)をしのぐ勢いの来場者でにぎわう名所が大阪にお目見えした。JR大阪駅北側の再開発地域「うめきた」に、4月26日まち開きした複合施設「グランフロント大阪」。長期低迷にさいなまれる関西経済の活性化に関係者の期待は強いが、成果を評価するには気が早すぎる。
「うめきた」は、JR貨物の旧梅田駅で広さ約24㌶。グランフロント大阪はこのうち、東側の先行開発区域約7万㌶に、三菱地所、オリックス不動産、阪急電鉄など東西の12事業者が開発した。残りの17㌶は、民間業者から提案を募っている段階で、まち開きは28年ごろをめざしている。経済界などからは緑地化などが提案されている。
12事業者がまとめた4月26日の開業から9月末までの約5カ月の来場者数は延べ約2700万人。年間目標を上回るペースだ。12年5月の開業から半年で約2790万人の来場があった東京スカイツリータウンを上回るのはまちがいない。
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関西以外の地には多分、十分な情報が届けられていないと思われるので、主な施設を紹介しよう。
グランフロント大阪は、JR大阪駅と直結する超高層タワー4棟に、住宅、商業、オフィス、新産業振興の4機能が設けられた。衣料品、雑貨やレストランなどの商業施設は266店舗。日本初出店が3店、関西初出店が72店。スペイン発のインテリア雑貨「ザラホーム」は日本初上陸という。
世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大の養殖魚料理店「近畿大学水産研究所」は、今でも長時間並ばないと食べられないほどの人気だ。ちなみに、12月2日、東京・銀座に2号店をオープンする。
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中核施設は、知的創造拠点「ナレッジキャピタル」である。新しい仕掛けが盛りだくさんだ。 「ナレッジオフィス」には、産官学の連携プロジェクトに取り組む19の大学、研究所などが集まる。慶応義塾大も「大阪シティキャンパス」を開設、130人収容可能な大教室や遠隔会議設備を備えた。「コラボオフィス」は、レンタルできる小部屋。企業の研究機関やベンチャー企業などが集まっている。
「ナレッジサロン」は会員制の交流施設。9月末現在の会員数は1450人と人気上々。学術関係から大手企業、ベンチャー、弁護士などまで様々な分野にわたり、香港在住のベンチャー企業経営者など外国人も会員に。すでに、いろんな交流やミーティングが活発だ。
開発段階のプロトタイプや活動を展示、公開している「ザ・ラボ みんなで世界一研究所」は子どもの来場者にも人気だ。異業種間のコラボレーションも始まっている。東京から参画している企業は「大阪の消費者は厳しいので反応が直に伝わる」と喜んでいる。「フューチャーライフショールーム」では、企業や大学などが少し先の未来を提案している。
ナレッジキャピタルのコンセプトは、感性と技術の融合による新しい価値の創造。先行きの予測がつかない現代に対応していくには、これまでのように、科学者、技術者ら専門家だけでなく、消費者、学生、子どもなど多様な市民が一緒になって新しい商品やサービスを生み出して行くことが求められる、という。そのための場、人的支援などを提供していくのがナレッジキャピタルの任務だ。
海外からの視察、商談も相次いでいる。7月には、リヨン市長(仏)一行が駅前再開発の参考にしたい、と視察に来た。「香港サイバーポート」の代表らの訪問も受け、交流会を開いた。駐日デンマーク大使館からは、法人会員になりたいとの打診を受けている。
コアバリューは『OMOSIROI』。東京から世界に発信する言葉が『もったいない』、『かわいい』なら、うめきた発は『OMOSIROI』。
もっとも商業施設の売上高は約200億円。来場者1人当たりの売上高は800円弱にとどまっている。大阪駅周辺には、2011年大丸梅田店の増床(2011年)、同年5月のJR大阪三越伊勢丹と専門店街ルクアが開業(同)、阪急百貨店梅田本店建て替え(去年11月全面開業)と大型店がひしめき、競争は激しくなる一方だ。そうでなくとも、東京五輪の招致が、東京一極集中を加速しかねない。大阪の浮揚は一筋縄ではいかない。
七尾隆太(元朝日新聞編集委員)