▶ 2013年12月号 目次
メディアの決意がみられない 〜特定秘密保護法への反対議論〜(下)ウォッチドッグのバネ
加藤順一
「西山事件」最高裁判決の中に見落としがちな項目がある。「我が国における報道機関の多くは自由競争社会における営利企業の形態を有し、このような企業の被用者である報道記者は、取材に当たって公共的使命に貢献し、公益を図りながらも他面においてその所属企業の営利性を追及し、スクープその他による個人的な利得や功名を追及することが多いという現実を無視することはできない。従って報道記者としての公共的使命を追及する取材活動にあってもかような私的利益の追及を伴うことは通常起こりうることである。」
最高裁のこの指摘に理はある。しかし、ジャーナリストの功名心は、権力に向かっての「ウォッチドッグ」のバネになることも忘れてはならない。特に「速報性」をテレビ、インターネットに譲った報道記者は機密に迫るための濃密な情報源獲得には興味を持たないが如くである。一方で「防衛機密」は急速に増えている。記録には無いが、2006年から2011年にかけて55000件の「防衛機密」が指定されていると言う。陸上自衛隊の情報収集能力も一段と強化されている。ある陸自将校によると「中国沿海部で行われている人民解放軍の演習で、中隊規模の戦車同士の無線連絡を受信できる」と言う。隣国中国の軍事大国化は「国家安全保障会議」(NSC)の必要性を感じさせている。「特定秘密」必要論はそうしたメディア側の事情に附け込んだ型で広がりつつある。
かつてのニューヨークタイムスの「ベトナム秘密報告書」事件(1971年)では、ダニエル・エルズバーグ博士が窃盗罪・情報漏洩罪を覚悟で「国家機密」の公開を果たした。
インターネット時代の情報公開では、オーストラリア人のジュリアン・アサンジ氏が「ウイキリークス」と言うウエッブサイトを開き、世界中の「内部告発」を受信している。最近では米国家安全保障局元職員のエドワード・スノーデン氏が「米国民が政府による大規模な監視下に置かれていることに義憤を感じた」と20万点に及ぶ「盗聴機密資料」を持って亡命している。
それぞれの事件の過程で、彼等は「国家には公表しがたい機密がある」と言う前提に立ちながらも、その「機密」へのアクセスには勇敢に立ち向かっている。「亡命」までして内部告発する勇気に、日本のメディアと、ジャーナリストはどのような反応を見せているのかさだかではない。(完)
加藤順一(元毎日新聞記者)