▶ 2013年12月号 目次

グルメブームが食材偽装を生む

木村良一


全国各地のホテルやデパート、レストランで、メニューの表記と異なる食材が使われていた問題が相次いで発覚した。
 たとえばバナメイエビを使用しているのに「芝海老」と書いたり、白ねぎや青ねぎを「九条ねぎ」と偽ったりしていた。紙容器入りのジュースが「フレッシュジュース」、牛脂注入の加工肉は「牛ステーキ」、冷凍魚も「鮮魚」と表示するなど挙げれば切りがない。
 飲食店側は「偽装」ではなく、「誤表示」と主張するが、いずれも安い食材を使いながら高い食材を使用しているように表記して高級感を出し、消費者のブランド好みやグルメ志向をくすぐっていた。それだけに消費者は「高級店が厳選した食材だと思ったからこそ、高いお金を支払ったのに裏切られた」と納得がいかない。
 それにしてもどうしてこんな問題が次々と発覚しているのだろうか。一流、二流を問わず、大半の飲食店が足並みをそろえたように食材の表記をごまかしていた点も疑問だ。飲食店がグルになって消費者をだまそうとしたと考えるのは不自然だから、外食・食品業界にとって虚偽表示は日常茶飯事で慣習だったのだろう。
 事実、過去の取材の中で「飲食業は羊頭狗肉が当たり前の世界だ」という話を聞いたこともある。外食・食品業界と消費者との間に大きなギャップがある。ならば消費者の方は、そのギャップを理解したうえでもう少し賢くなる必要がある。
 ところで5年前の2008(平成20)年1月21日付の産経新聞に、そのころやはり大きな社会問題となった消費期限や賞味期限を改竄した食の偽装が起きた原因を探るコラムを書いたことがある。見出しは「清潔社会が食偽装を生む」で、そのコラムから要所要所を抜粋して考えてみよう。
 コラムは〈昭和が人気である。平成のいまの時代に対するある種の不安が、ノスタルジアをかきたてるのかもしれない〉と始まり、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を取り上げ、次に昭和のなつかしい「食」に触れている。
 〈そのころ日清食品が世界初の即席麺のチキンラーメンを発売し、コッペパンと鯨肉の竜田揚げ、脱脂粉乳が学校給食の定番だった。それが日本の「食」だった〉  〈昭和30年代のこの時期、日本は長いトンネルから頭を出した蒸気機関車のように終戦直後の食うや食わずの貧しさから抜け出し、高度経済成長期へと突入していく。やがて食も豊かになり、美食とか、グルメとかがもてはやされるようになった〉