▶ 2014年1月号 目次
原発は重要なベース電源 ~政権交代と新エネルギー政策~
佐々木宏人
「この会合は非常に偏った関係者の会合と思う。公聴会を開いて広く意見を聞くべきだ。」
「偏ったという発言は会長として我慢ならない、訂正してほしい!」
これは11月末に開かれた経済産業省の諮問機関「総合エネルギー調査会基本政策分科会」(会長・三村明夫日本商工会議所会頭、新日鐡住金名誉会長)の席上、委員の辰巳菊子・日本消費者生活アドバイザー・コンサルタント協会常任顧問からの要望に、三村会長が怒気を含みながら答えた一幕だ。
同分科会では中長期的な日本のエネルギー政策のベースとなる「エネルギー基本計画に対する意見」をまとめるための議論を、安倍政権発足後の2013年3月以来、20回近い会合を重ねてきた。そして11月末にその内容をまとめ、経済産業省案とし最終的に2014年1月中に政府案として閣議決定する方針が示された。
これにかみついたのが冒頭の辰巳VS三村の対決。しかし辰巳氏の発言は犬の遠吠えでしかなかった。
昨年9月、“2030年代に原発ゼロ”をぶち上げた「革新的エネルギー・環境戦略」が民主党政権時代作成された。この時の同調査会の基本問題委員会のメンバーには、以前から原発反対運動に参加していたメンバーや、慎重派の学者、再生エネルギー推進論者などが少なくとも25人中8人は参加していた。このため“委員長不信任”の動議が提案されるなど荒れに荒れ、何も決まらず野田政権の国家戦略室が「革新的エネルギー・環境戦略」を最終的にまとめた。
それが今回はメンバーは15人となり、脱原発派は辰巳氏をいれても2~3人。民主党政権時代とは様変わりの構成となった。日本経済の長期展望に立って、エネルギー政策のあり方をまとめたもので、いわば“アベノミックス”の経済政策との整合性を取ってエネルギーの安全保障がいかに日本経済にとって必要かを提示したものと言える。
今回の「「エネルギー基本計画」と民主党政権下の「革新的エネルギー・環境戦略」違いのポイントは、なんといってもエネルギー政策における原子力発電の扱いだろう。
福島原発の事故からすでに三年になろうとしている現在、ようやく感情論を排して日本のエネルギーのあり方をクールに見つめ直すスタートに立った印象がある。
基本計画はまず福島事故の反省を踏まえ、これまでのエネルギー政策が「3E―安定供給(エネルギー安全保障)、コスト低減(効率性)、環境負荷低減」だったことに加えて「安全性」を入れ「3E+S」としたことだ。
現状分析では現在の原発50機の全機停止状況により、2012年度は事故前より石油、天然ガスなどの燃料費が3.6兆円増加、これによる電気料金の値上げ、さらに二酸化炭素排出量は急増し、企業の海外移転を促進するとの危機感を示す。
さらにエネルギーの自給率の急激な低下を指摘する。3・11前の原子力発電を含んだ自給率19.5%は6.0%に下がってきている。例えば中部電力の現状は、発電量の約80%がペルシャ湾岸の産油国カタールからの輸入に依存している。もしイスラエルがイランの核施設を攻撃すれば、ペルシャ湾の幅33㌔㍍しかない日本の石油輸入の80%が通過するホルムズ海峡を、イランがイスラエルに対抗して封鎖する公算は強い。タンカーは全面ストップ。中部地方のトヨタ自動車をはじめとする経済圏は大きな影響を受けるだろう。
そして「基本計画」は原子力について、「2030年脱原発」を掲げた民主党政策から路線変更し、事故への備えを拡充したうえで「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源である」と、エネルギー政策上の位置付けを明確にしている。しかし政策の方向性として「原発の依存率は可能な限り低減させる」と書いてはいる。3.11前の「新国家エネルギー戦略」では、「2030年には総発電量の30~40%にする」との“原子力立国”を示したいたのとは違い、エネルギー全体の中での依存率は明確に示していない。
この辺に「トイレなき原発はゼロ」という小泉発言への配慮が出てきているのではないだろうか。原子力団体の幹部に「小泉発言のメリット、デメリットをどう考えるか」という問に「核燃料サイクルの問題について関心が向いてきたことはいいことではないか」という。確かに基本計画では使用済み燃料について「現世代の責任としてその対策を着実に進めることが不可欠である」と記している。
いわば小泉発言の波紋の大きさを考えて、とりあえず原子力政策の漂流を止め、「原子力政策はそろりとまいろう」というのが、今回の「基本計画」の本音かもしれない。
佐々木宏人(元毎日新聞経済部記者)