▶ 2014年1月号 目次

エイズと献血 検査目的は許されない

木村良一


昨年11月下旬、エイズウイルスに感染した献血者の血液が、日本赤十字社の検査をすり抜けて患者2人に輸血され、うち1人がエイズウイルスに感染していたことが大きな問題になった。このニュースを伝える新聞記事を読んでキーワードの「ウインドウ・ピリオド」という言葉を久しぶりに目にした。感染初期でウイルス量が少なく、検査をしても感染が確認できない空白期間がこのウインドウ・ピリオドである。
 ウインドウ・ピリオドはもちろんのこと、ヒト免疫不全ウイルスの頭文字を当てたHIVや同様に後天性免疫不全症候群を略したエイズ(AIDS)も「久しぶりに聞いた」という人が多いのではないだろうか。薬害エイズ問題やその事件が盛んに報道された20年ほど前に比べ、いまはエイズが社会的関心事になっていないからだろう。ちなみに血友病患者が治療に使う血液製剤という薬にエイズウイルスが混入し、多くの死者を出したのが薬害エイズだった。
 もう少し解説しよう。HIVつまりエイズウイルスに感染して発症する病気がエイズだ。エイズウイルスに感染すると、症状のない状態が5~10年と長く続いた後、さまざまな細菌やウイルスに繰り返して罹る日和見感染を引き起こしたり、悪性腫瘍ができたりする。免疫機能が次第に破壊されるからで、最後には命を落とすことになる。
 いまは症状のない発症前の段階で感染を把握できれば、投薬治療が可能になる。ただし現在の医学では全てエイズウイルスを体から駆逐することはできず、薬は一生飲み続けなくてはならない。それでも最近は1日1回の服用でウイルスを十分に抑え込める画期的な薬ができ、感染者も普通の人と同じように生活し、生きながらえることができるようになっている。
 皮肉なことにこうした治療の進歩が「エイズはもう怖くない」「死に至る病ではなくなった」との安堵感を生み、マスコミが取り上げなくなるとともに社会的関心が低くなった。しかしながらエイズがこの世界から消えてなくなったわけではない。厚生労働省エイズ動向委員会の調査によると、エイズウイルス感染者とエイズ発症者(エイズ患者)は年々増え続け、2012(平成24)年には感染者1002人、患者447人を記録し、現在の感染者・患者の累積は2万人を超えている。