▶ 2014年2月号 目次
政界再編どころではなくなった橋下大阪市長の足元
七尾隆太
今年は「大坂冬の陣」から400年、来年は「夏の陣」から400年。おさらいすれば、徳川方と豊臣方が戦い、大阪城が落城して豊臣家が滅亡した歴史事件だ。人、モノ、カネが上方から江戸に流れていく契機になった。地元大阪は、この両年を「大坂の陣400年」と位置づけて様々なイベントを繰り出すことになっている。1月19日付の読売新聞「編集手帳」は、冬の陣に触れたあと「大阪で今年、もう一つ、大きなイベントが控える。大阪市を分割し大阪府と統合再編する『大阪都構想』の賛否を問う住民投票である」と展開。橋下徹大阪市長の期待通りには進んでいないことに言及して「構想実現やいかに。現代版〈冬の陣〉に注目である」と結んだ。手だれの筆致である。
編集手帳子が、大阪、橋下市長を素材に取り上げるのはめったにないが、地元テレビはじめメディアに登場する機会は減った。在阪のテレビ関係者の中には、「橋下さんでは視聴率が取れなくなった」とあからさまに口にする人もいる。小子は、数紙の橋下関連記事のスクラップを続けているが、このところぐっと少なくなった。
橋下市長が最近、メディアで大きく取り上げられたのは、大阪を代表する伝統芸能、人間浄瑠璃文楽への大阪市の補助金がまたまた減額される見通しになったことだ。各紙によると、2年前の市長就任時に文化団体への補助金見直しを打ち出し、12年度、文楽協会に対する補助金を1300万円減らして3900万円とした。13年度は、活動補助費1千万円を除く2900万円を、入場者数に応じて決めることにしていた。入場者が9万人以下ならゼロ、10万5千人以上なら満額、これに満たない場合は1人に付き約1930円の減額としていた。
国立文楽劇場(大阪・日本橋)の13年度の本公演の入場者数は10万1204人(速報値)。
この結果、補助金は730万円カットされ、約2170万円になる見通しになった。減額による協会の赤字は免れる見通しだが、「文楽が岐路に立たされている状況に変わりない」(1月27日付日本経済新聞)という。経済性重視の補助金のあり方について、識者の批判は強い。
橋下さんの求心力低下の引き金になったのは、去年9月29日、「都構想」の是非を争点に投開票があった大阪府堺市長選挙だ。大阪維新の会公認の新人、西林克敏氏が現職の竹山修身氏に大差で破れた。竹山氏は都構想に反対論を展開、維新の会の総力を挙げた戦いにもかかわらず敗れた。都構想の実現で、堺市が「のみ込まれてしまう」ことへの反発心が強かった。橋下神話が崩れ始めた選挙だった。
都構想の実現は、橋下政権の看板政策で、この秋の住民投票、15年4月に実現の予定だったが、先行きは不透明さを増してきた。これまで協力関係にあった公明党が、大阪市の区割り案の絞り込みに慎重な構えを見せていることもあり、時間がかかることも予想される。また、大阪府は府議会の過半数を占めていたが、昨年末、大阪維新の会から造反議員が出て過半数を割り込んだ。大阪府南部を走る泉北高速道路を運営する第3セクターを米国投資ファンドに売却して民営化する議案が、大阪維新の会の4議員が反対に回ったため否決されたからだ。4氏は維新の会から除名され、結果として大阪府、大阪市の両議会とも過半数を失うことになってしまった。
市長就任2年を機に実施されたメディアの世論調査では、支持率が初めて50%を割った。かつて70%前後あったことを考えると急落といえるだろう。
都構想の行方以外にも、解決すべき課題は多い。橋下さんはどのような巻き返しを図ろうとするだろうか、編集手帳子でなくても、大阪の現代版〈冬の陣〉からは目を離せない。
七尾隆太(朝日新聞社友)