▶ 2014年3月号 目次

震災3年 復興特需が招く新たな“災害”

中島みゆき


 東日本大震災から3年が経つ。災害公営住宅竣工など明るい話題が伝えられる一方、依然26万人以上が仮設住宅など自宅外の生活を余儀なくされている。被災地にはおびただしい数のダンプカーが走っているが、生活再建への道筋は依然見えてこない。安倍晋三首相は震災3年を前に「将来のさまざまな災害に備え強靱な国づくりを進める」との談話を発表しているが、防潮堤など住民が望まないインフラ建設が進められる可能性もあり、被災地の思いは複雑だ。私が通い続けている石巻市河北町の今を伝えたい。 ■1か8かの選択
 雪の朝、午前5時に北上川河口近くの内湾・長面浦(ながつらうら)に向かうと、道路左側には漁場に通う車輪の跡が幾重にも刻まれていた。長面浦に面した二つの集落のうち長面地区は住宅が全流失、尾崎地区もほぼ全域が災害危険区域に指定され、漁師は約20キロ離れた仮設住宅から毎朝通ってくる。電気は昨年8月にやっと復旧したが水道は目途が立っていない。学校、病院なども近くにないことから近くへの高台移転が成立せず、仮設を出た後も20キロ離れた集団移転地からの“通い漁業”は続く。
 周囲8キロほどの小さな海に漁師らがこだわる理由は、恵まれた自然環境だ。浦を囲む広葉樹の山々からミネラル豊富な沢水が注ぎ、大粒の牡蠣が7カ月で育つ。漁師らは、景観や穏やかな内海という地域特性を活かした観光と一体化した漁業による復興という方針を立て、漁場整備や消費地交流に励んでいる。
 「ここに8メートルの防潮堤ができるなんて」。海を見ながら尾崎地区の漁師が言った。市の担当者から「防潮堤の高さは現行+1メートルか8メートルかで、それ以外の高さにする場合は復興が遅れる。低いと津波が全部こちらに来る」と説明され、8メートルを前提に船着き場位置などの希望を出したのだそうだ。「防潮堤建設に合意したのですか」と尋ねると「そんなつもりはない」と言う。しかし他地域では、仮定の会話から「容認」と解釈された事例もある。村井嘉浩知事が一律の防潮堤建設を進める宮城県内では、住民合意形成をめぐり問題が多発している。
■資材高騰、進まない生活再建
 北上川河口域では「災害復旧」として大規模な土木工事が多数行われている。工事ラッシュは異常なまでもの資材高騰と業者不足を招き、生業の回復を阻む要因になっている。長面浦の漁師が収入回復の要と期待する牡蠣むき場の再建は、総額5000万円の護岸工事を請け負う業者が見つからず着工と竣工が3カ月以上遅れた。カキはむき身で出荷できるとできないとでは収入が2倍近く違う。出荷最盛期に間に合わなかった不利益は重く漁師にのしかかる。