▶ 2014年4月号 目次

STAP細胞騒動の教訓 疑うことを忘れるな

木村良一


大逆転した「STAP細胞」のニュースについては、報道に携わる者として反省しなければならない。はなから生命科学の常識を覆す大発見だと信じて疑わず、それを証明する論文の杜撰さを少しも見抜けなかったからだ。
 私だけではなく、すべてのマスコミが疑いの目を持たなかった。どれだけ過信していたのか。「STAP細胞の作成に成功」との報道がされたときの新聞の社説と、論文に改竄や流用が見つかった後の社説を読み比べてみれば一目瞭然である。
 1月31日付の朝日新聞の社説は「常識を突破する若い力」との見出しを立て、博士号をとってわずか3年で新しい万能細胞(STAP細胞)の作成に成功したという理化学研究所の30歳の小保方晴子氏を褒めたたえた。「化学畑の出身で、生物学の既成概念にとらわれず、自らの実験データを信じた」「強い信念と柔らかな発想に満ちた若い世代」。社説にはこんな称賛の言葉が並んだ。
 その後の社説(3月15日付)では、論文を「常道を逸している」と批判し、「理研は日本を代表する研究機関である。この混乱を招いた事態について、誠実かつ早急に問題を解明する責任がある」と糾弾している。
 こうした絶賛から酷評という逆転はどの新聞社の社説も同じだ。毎日新聞の見出しは「驚きの成果を育てよう」(1月31日付)から「全容解明し説明尽くせ」(3月15日付)に変わり、読売新聞も「理系女子の発想が常識覆した」(2月1日付)から「理研は疑問に正面から答えよ」(3月12日付)に変わった。
 産経新聞の社説(主張)も「iPS(人工多能性幹細胞)、STAPと続けざまに画期的な成果を生んだことを日本の強みとし、激しい国際競争に勝ち抜いてもらいたい」(1月31日付)と日本の生命科学研究の将来を大きく期待した。しかし3月15日付では「理研は中間報告で、博士論文からの画像の流用や他の論文のコピーを認定し『(小保方論文について)論文としての体をなしていない』との認識を示した」としたうえで、理研に対し「批判(発表直後から相次いだ論文への疑義など)に真摯に向き合う意識が欠けていたのではないか」と厳しく批判している。
 ところで私は2012年11月号のメッセージ@penで「iPS大誤報はなぜ起きた」と題し、iPS細胞から作った心筋細胞を患者に移植したという虚偽の発表をめぐる誤報騒動を取り上げたことがある。