▶ 2014年6月号 目次
民間の力で文化を支援する「アーツサポート関西」が始動
七尾隆太
「タニマチ」と言えば、芸能、スポーツ分野などのひいき筋、後援者の意、と広く解されている。だが、語源が大阪市中央区谷町という地名だったことは知る人ぞ知るではないか。『大阪語ロク』(関西経済同友会編)から引くと、「明治末、谷町筋の相撲好きの歯医者が、力士から治療費をとらず自宅に土俵まで作って稽古させ、飲み食いまで世話した、との逸話」がもとになっている。その大阪で、民間から寄付を募って関西の芸術・文化活動を支援する組織「アーツサポート関西」(ASK)が4月に発足、活動を始めた。自治体の文化予算の削減など厳しい大阪の文化・芸術環境を、民間の力で盛り返そうとのねらいが込められている。
ASKは個人、企業など民間の寄付を集め、芸術・文化活動をする団体・個人に助成する。寄付者が自分の好きな分野、ジャンルに寄付できるのが特徴。少額(1000円以上)なら、美術・デザイン、音楽、演劇、ダンス、映像・映画、伝統芸能など8分野から助成先を選べる。「分野指定型」と呼ぶ。5万円以上の場合、助成する芸術・文化団体などを指定し、「○○基金」などと名前を付けられ、「特定型」と言う。寄附に対しては税の優遇措置が適用される。
単に助成にとどまらず、寄付者と支援先の交流の場を設定する「パトロンプログラム」やウェブを活用した情報発信などにも取り組み、鑑賞者の育成などにも力を注いで、市民の文化意識の向上をめざす。
助成範囲は「関西文化元気圏」(大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県、奈良県、和歌山県、福井県、三重県、徳島県、鳥取県の2府8県)。この元気圏は「文化の力で社会を元気にしよう」と、河合隼雄・元文化庁長官(故人)の呼びかけで、2003年に発足した。
事務局は、約30年前から大阪の文化力向上に取り組んで来た公益財団法人関西・大阪21世紀協会内に置かれた。
ASKは、関西経済同友会の歴史・文化振興委員会(鳥井信吾委員長)が2011年、文化振興先進国と言われる英国を視察、世界で最初に設立された英国アーツ・カウンシルなどを調査、翌12年、「大阪版アーツカウンシル『タニマチ文化評議会』の創設」と題する提言をしたのが発端となった。
関西の芸術や文化活動をめぐる環境は必ずしも良好とは言えない、特に大阪では文化予算の削減が続くなど厳しい状況にある、との認識の上に立って、国や自治体頼みだけでなく民間主導の文化支援が必要と述べている。
代表発起人には、鳥井信吾・前関西経済同友会代表幹事、佐藤茂雄・大阪商工会議所会
頭ら経済人や千玄室・裏千家前家元、指揮者佐渡裕氏ら文化人8氏が名を連ねている。
運営委員会の委員長には鳥井信吾・サントリーホールディングス副社長が就任した。
英国アーツ・カウンシルは1946年に発足した。初代会長は経済学者のJ・M・ケインズ。文化庁などによると、ケインズは、ナチス・ドイツが芸術を政治的に利用したことに異論を唱え、行政から一定の距離を置く「アームズ・レンクス」の原則を提唱した。現在も、政府から独立した機関として活動しているという。主な資金源は政府補助金と宝くじ基金で、予算(2012年度)は約7・4億ポンド(1100億円)。公募団体の中から696団体を審査のうえ助成している。わが国の自治体では、東京、横浜、沖縄などがカウンシル事業を推進している。
こうしたなか、大阪府・大阪市が合同で去年7月、「大阪アーツカウンシル」(OAC)を発足させた。府市共同で設置した文化振興会議の部会として位置づけられる。主な事業は、府市の文化事業の検証・評価、助成事業の審査など。「アーツカウンシル東京」が行政と独立した東京都歴史文化財団が執行しているのに対して、OACが行政の一組織であることから、早くも行政が口出ししない「アームズ・レンクス」の原則が守られるか、など懸念の声も出ている。
大阪に、二つの文化支援組織がほぼ同時期に設立されたことに対して、ASKでは、OACはあくまで行政組織で、原資は公的資金。「行政ではしにくい血の通った支援がスピーディーにフレキシブルに行える」としている。
5月初め、ASKは大阪市内のホテルで支援金の寄付を募るチャリティー・パーティーを開いた。経済人や文化人ら1650人が集まり、収益は2400万円に達した。地元の関心は高く、滑り出しは上々といえそうだが、大阪人の芸術・文化に対するタニマチ度が本物か、試されるのはこれからだ。
七尾隆太(朝日新聞社社友)