▶ 2014年7月号 目次
尾道の挑戦ー地域の活性化へむけてー
山形良樹
このところ郷里・尾道に帰る機会が増えました。尾道市立大学のキャリア教育のひとつ「ライティング・スキル」の特別講師を頼まれたのと、来年2月に完全リタイヤするのを前に、尾道の生家を、東京に次ぐ第2の生活拠点にする準備を始めたのです。尾道は、山あり海ありという恵まれた自然環境に加え、山の斜面にまで伸びる迷路のような路地の中に、平安時代からの由緒ある寺やレトロな民家が混在する独特の景観から、映画のロケ地として幾度となく使われてきました。また、志賀直哉・林芙美子などの文学作品にも描かれ「坂の町」「文学の町」「映画の町」として全国的に有名です。最近ではNHKの朝ドラ「てっぱん」の舞台にもなりました。古くから海運による物流の集散地として繁栄し、現在は、年間633万人が訪れる人気観光地となった尾道も、町の花形だった造船業の衰退や長引く不況で、中心部の商店街は寂れ、空き店舗が目立っています。
こうした状況を打破し、人的ネットワークを生かして、尾道の活性化を後押ししようと、尾道出身者や尾道にゆかりのある首都圏在住の有志が、2005年7月、「尾道サポーターの会」を立ち上げました。会員は、経団連副会長の三浦惺NTT会長や、「沈黙の艦隊」の漫画家・かわぐちかいじ氏、外科医的建築家で知られる今川憲英東京電機大学教授、愛知万博の会場作りを手がけた造園家の戸田芳樹氏、シドニー五輪野球日本代表監督の大田垣耕造氏、ギャガの創業者藤村哲哉氏など総勢240人で、私が3代目の会長を務めています。メンバーの原動力は、「故郷に恩返しがしたい」という純粋な気持ちで、東京駅に近い日本ビル内にある尾道市東京事務所を活動拠点にしています。
会では、毎年7月、尾道市から市長や地元財界人を呼んで、会員との交流会を開いています。今年のテーマは、「尾道回帰」です。今、地方から大都会に出てきて日本の経済成長を支えてきた人たちが次々と定年を迎えています。1996年に国が行った世論調査では、大都市生活者の約26%が条件さえ許せば地方で暮らしてみたいと希望しています。そうした人たちが、それぞれのふるさとに帰って、新たな価値観を伝え、ふるさとの人たちと刺激しあうことで地域の活性化・再生が図れると期待されています。交流会の去年のテーマは「尾道再生」でした。
尾道に古くからあるものを大事にしつつ、新たな価値観を加えていこうという主旨でした。今年は、その「尾道再生」を実現させるため、一歩踏み出して、皆でふるさと・尾道に帰ろう!つまり「尾道回帰」をテーマにしたのです。今年の交流会では、地元の受け皿のひとつとなる福祉・介護施設の代表が施設の紹介を、また平谷祐宏市長が尾道の高齢者福祉施策の現状を説明する予定です。会では、これまで、会員にふるさと納税を促したり、尾道市立大学の学生の就職支援や尾道観光PRの支援活動等を地道に続けてきました。今年は、対岸の向島を結ぶ尾道大橋をライトアップするプロジェクトにメンバーを送り込んでいます
最近、尾道市内を歩くと、欧米やアジアからの外国人観光客の姿を見ることが多くなりました。軽快な服装で自転車に乗り海沿いを颯爽と走る人もいます。実は、尾道と四国・今治を結ぶ全長約70kmの瀬戸内しまなみ海道が、世界のサイクリストに注目されているのです。しまなみ海道には、日本で初めての海峡を横断する自転車道があり、「景色が素晴らしく、とても走りやすい」と評判です。広島県は、しまなみ街道の本州側の起点・尾道市の海沿いにある県営倉庫を改修し、今年3月、日本で初めて自転車に乗ったままチェックインして部屋まで持ち込める、サイクリスト向けホテルを整備し、民間事業者が運営しています。尾道市では、サイクリスト向けの市内34箇所の宿泊施設を紹介するホームページを立ち上げました。10月には、広島・愛媛の両県で作る実行委が国際サイクリング大会を開催し参加者約8千人の1割は海外から呼び込む計画です。尾道は、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞したテレビアニメ「かみちゅ!」のモデルにもなりました。おかげで尾道はアニメの5大聖地と呼ばれ、わざわざ外国から巡礼(?)に訪れる人もいるほどです。尾道は、スポーツ・文化両面で国際的な知名度が上がりつつあります。勢いに乗る尾道市は、このほど、尾道の魅力を“志を持って”発信するボランティアを募集、「尾道観光大志」と名づけ、110人を採用しました。大志には、市が運営する観光施設の優待券にもなる名刺を配布し、大志達はこの名刺を行く先々で手渡すことで尾道をPRすることになっています。尾道サポーターの会の7月の交流会では、任命式が行われ、私も市長から観光大志に任命されます。地域活性化に向け、人口14万人余りの地方都市・尾道の挑戦は続きます。
山形良樹(元NHK記者)