▶ 2014年7月号 目次

代理出産、人工授精、体外受精…。生殖医療の議論から逃げるな

木村良一


科学や医学の進歩によって法律が想定しない事態が次々と起きて法整備が追いつかない。どうルール作りを進め、高度な技術を活用したらいいのだろうか。最近、こんな思いを強くしている。
 たとえば遺伝子を特定するDNA鑑定。これによって血縁関係のないことが明らかになった場合、法律上の父子関係を取り消せるのかどうかが、2つの裁判で争われている。いずれの訴訟でも妻が夫とは別の男性と交際して出産し、生まれた子供はDNA鑑定によって100%近い確率で夫ではなく、男性との間の子供だと判明した。しかし民法772条では「妻が婚姻中に懐胎した子供は夫の子供と推定する」(嫡出推定)と定められているため、妻側が父子関係の取り消しを求めた。
 2つの裁判とも1、2審の判決ではDNA鑑定の結果が採用されたが、6月9日、上告審の最高裁第一小法廷が当事者から意見を聞く口頭弁論を開いて結審した。このため最高裁判決(ともに7月17日)でそれぞれの2審判決が見直される可能性が出てきた。DNA鑑定という科学技術の進歩で父と子に血縁関係がないことが明らかになったにもかかわらず、最高裁が100年以上も前の明治時代に作られた民法(772条)をもとに「父子が親子だ」とみなす判断を下すとしたら納得し難い。
 代理出産に代表される生殖補助医療(不妊治療)はもっと深刻だ。自民党のプロジェクトチーム(PT)が法案(議員立法)を作ったものの、意見がまとまらず通常国会に提案できなかった。
 法案が認めている代理出産は、夫婦間の受精卵を第三者の女性の子宮に移植して産んでもらういわゆる借り腹だ。生まれつき子宮がないか、病気で子宮を摘出した女性に限って認めるという条件付きで、民法や最高裁判例の「出産した女性が母親で、母子関係は分娩の事実によって確定する」という分娩主義によって子宮のない「遺伝上の母」は母親とみなされない。つまり医学的に子供と血縁関係があっても、その子供を産んでいないと法律上、母親とはみなされない。このため養子縁組を結ぶ必要が出てくる。
 DNA鑑定で父子関係のないことがはっきりしても、民法の嫡出推定から婚姻中に妻が産んだ子供はその夫の子供とみなされるという矛盾とまったく同じだ。