▶ 2014年7月号 目次

2015年末、「巴里に未来の灯は点(とも)るか」
~地球温暖化交渉で出遅れる日本~

藤井良広


「翼よ!あれが巴里の灯だ」の映画は、チャールズ・リンドバーグの歴史的な大西洋単独横断飛行を題材にしたジェームズ・スチュアート主演の名作だ。今年は、リンドバーグの冒険から88年、映画封切りから58年。そして来年は改めて「パリの灯」が注目を集めそうだ。
2015年末に、2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みを決める国連気候変動条約第21回締約国会議(COP21)がパリで開催されるためだ。京都でのCOP3会議(1997年)で合意した京都議定書(2008年-12年)を引き継ぐ義務的な枠組み交渉は、各国の利害対立から設定が見送られ、2020年までは各国の自主的な対応に委ねられる状況になっている。
だが人間が、政治的な思惑や経済的な打算で、いろいろと理由を付けて自らへの厳しい規制を棚上げしても、温暖化の進展自体が止まるわけではない。昨年後半から今春にかけて相次いで公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第5次評価報告書(AR5)は、「温暖化について疑う余地はない」と断言し、「人間活動が主要な要因である可能性は極めて高い」と結論づけた。
北極海の氷層減少、ヒマラヤ等の氷河減退、日本の酷暑、米国で頻発する巨大ハリケーン、欧州の洪水増発――。一部の温暖化懐疑論が完全に消えたわけではないが、眼前の現象や皮膚感覚と、国際的な観測結果や科学的推計との間の距離感は、年々、縮まっている。
棚上げ状態になっていた国際交渉も、「このままでは自分たちが被る影響は免れない」との理解から変化が起きている。年初には欧州連合(EU)の欧州委員会が、2020年以降のEU目標を40%削減(1990年比)と発表した。6月初めには、オバマ米大統領が国内の石炭火力発電所の3割削減を宣言した。世界で最も排出量の多い中国も、6月半ばにドイツのボンで開いた国連会合で、初めて自らの削減目標設定に言及し、交渉相手国を驚かせた。
まだ各国とも、「パリをにらんだ駆け引き」の側面は強い。だが、気になるのは、こうした主要国の動きに、日本がほとんど絡んでいない点である。
日本の現在の2020年目標は、2005年比3.8%削減(90年比3.1%増)。2009年に当時の民主党政権の鳩山首相が華々しく打ち出した「25%削減目標」は、原発増設が前提で、東京電力福島第一原子力発電所の事故で国内の全原発が運転停止したことで、一気に萎んでしまった。政権を取り戻した安倍首相は原発再稼動を主唱、主導するが、福島の事故処理もままならず、住民の反対で再稼動シナリオを強行できないでいる。
ある意味で、日本は原発事故で温暖化政策もフリーズ(凍りつく)したような姿だ。