▶ 2014年8月号 目次

「DNA父子関係訴訟」 100年前の民法を改正するときだ

木村良一


 鑑定によって血のつながりがないことが明らかになった場合、法律上の父子関係を取り消せるのか。最高裁が初めて出した答えは「ノー」だった。父子関係の取り消しを認めた1、2審に対し、最高裁が正反対の判断を下した。その根拠になったのが「婚姻中に妊娠した子供はその夫の子供(嫡出子)と推定する」という民法772条の嫡出推定の規定だ。この規定がある以上、最高裁がこれに基づこうとする気持ちは分からないでもない。しかしながらDNA鑑定など存在しない100年以上も前の明治時代に作られた規定によって最終判断を下すのは無理がある。
 2つの訴訟で最高裁第1小法廷は7月17日、「生物学上の父子関係がないことが科学的証拠(DNA鑑定結果)から明らかでも、法律上の父子関係はなくならない」との判断を示した。ただし5人中2人の裁判官が反対意見を述べる僅差の際どい判決だった。それだけ判断が難しく、民法を重視しようとするこれまでの司法の姿勢が問われているわけである。
 DNA鑑定訴訟の判決までの経過については「メッセージ@pen」の7月号で触れているのでここでは省略して法廷に出された各裁判官の賛成、反対の意見(要約)を見ていきたい。
 補足意見①「DNA鑑定の技術が進歩したなかで、父子関係を速やかに確定して子供の利益を図る嫡出推定は現段階でも重要性を失っていない。旧来の規定が社会の実情に沿わないものとなっているのなら立法政策の問題として検討すべきだ」
 補足意見②「DNA鑑定は決して乱用してはならない。新たな規範を作るのであれば、国民の中で十分議論したうえで立法するほかない」
 反対意見①「今回の訴訟では夫婦関係が破綻し、子供の出生も明らかになっている。生物学上の父親との間で法律上の親子関係が確保できる状況にもある。それゆえ父子関係の取り消しは認めるべきだ」
 反対意見②「DNA鑑定の技術の進歩は、民法制定時には想定できなかった。この技術によって父子間の血縁の存否を明らかにして戸籍に反映させたいと願う人情と、民法の嫡出推定の制度とを適切に調和する必要がある。その実現には立法を待つことが望ましい」