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被災者・被害者報道のあり方を考える~慶應義塾大学綱町三田会ミニゼミから~

米田亘


2014年度2回目の綱町三田会ミニゼミが、東日本大震災の「被災者・被害者報道」をテーマに7月2日、慶應義塾大三田キャンパスで開かれた。メディア・コミュニーション研究所の担当教授と、将来メディアを目指す現役学生や院生、それに研究所を卒業後メディア界に進んだ現役の記者らが、学生が事前に提出したレポートをもとに討議して設けたテーマで議論した。

「寄り添う報道」とは
 今回のテーマで、学生がまず提起したのは、「報道は被災者に寄り添う形で行われたか」。「震災後の放射能汚染取材で、避難区域とされた福島第一原発から30キロ圏内にマスメディアが立ち入らず、かつ危険喚起を行わなかったことは問題ではなかったか」とのレポートを糸口に論議した。
現場取材を知る現役の記者らからは「寄り添う報道」の意味するものの定義が不明確だ、との指摘が共通していた。「物理的に大手マスコミが区域に立ち入らなかったことが、ただちに報道できなかったと直結させるのは、論理の飛躍」、「記者が圏内に残ることが危険を誘発する場合もある」との反論だ。「入りたくても入れない」厳しい状況の中で、報道機関が圏外からの電話取材や避難所取材などを行ったことも忘れてはならないとした。また、被災をしていない取材者が「寄り添う」ことを語ることが、報道の驕りではないか、との声もあった。

多様な被災地、多様な弱者  理想と現実
 もう一つ学生側からは、復興期を通じてキーワードとして使われた「絆」に関する議論が提起された。「絆に象徴されるような、分かりやすいストーリー化を図った一様な報道が、一部の被災者を傷つけてしまうのではないか」という発問だ。
 これに対し会員は一定の理解を示しつつ、自らの取材体験をもとに報道の理想と現実を語った。「災害報道には、被災者にとって助けになる情報の発信と、同時に広く震災の記憶の風化を防ぎ、災害を繰り返さないための報道と、2つの役割を担っている。そのバランス、時期・場所の問題も絡んでくる」。