▶ 2014年9月号 目次

"お告げ"の終わり~アベノミクスの今後~

陸井 叡


 世界の金融界をシャーマン(呪術師、巫女)が跋扈している。シャーマンとは、アメリカの中央銀行Fed(連邦準備制度理事会)の女性議長イエレン氏だったり、ECB(欧州中央銀行)前総裁のトリシェ氏 そして、最も"狂信的"と見られている日銀総裁の黒田東彦氏だったりする。今や、シャーマンの"お告げ"が世界中を覆い尽くしている。
 金融界、特に中央銀行のトップといえば、これ迄は寡黙が必須の条件だった。公定歩合の上げ下げについて、公表迄は気配さえ与えてはいけない。もし、質問があっても嘘をついて良いとされた。ところが、特に、2008年 世界経済に衝撃を与えた金融恐慌 リーマンショック以降 "おしゃべりバンカー"が突如あふれ出した。
 この異変を研究したのがアメリカの何と人類学者だった。彼は「言葉による経済」という本を2013年に出版したが、その後、経済紙 フィナンシャルタイムズの記者が中央銀行の総裁を"マネタリーシャーマン"と名付けた。(加藤出著 朝日新書 「日銀 出口なし」)  Fedのイエレン議長は、今年初めの就任にあたって、まず第一に市場との会話能力が有るかを試された。"おしゃべり"がうまいかどうかと言うことだ。中央銀行とは公定歩合をはじめ高等な金融技術を駆使して市場を動かして行くものと思っていたら、今や"言葉"で市場を操作しているというのがアメリカ人人類学者の驚きだったのだ。
 この背景には、特にリーマンショック以降、主要国の中央銀行が金利政策から離れることを意味する所謂ゼロ金利政策に走ったものの、それでも金融危機が収まらなかった事が有る。これ迄の伝統的な政策から""言葉"おしゃべり"という未知の手段を使い始めたのだ。
 "おしゃべりバンカー"の中で最もアグレッシブと見られているのが日銀総裁の黒田氏である。そのシャーマンの"お告げ"は、2013年4月14日に"発せられた"。安倍政権の発足からほぼ4ヶ月がすぎていた。日銀が国債など証券を一年につき60兆円ー70兆円買い上げる形で市場に巨額の資金を供給し、結果として、金利引き下げによる企業の設備投資と円安による輸出拡大を促し、日本経済をデフレからインフレに誘導するという。2年後、2015年には物価を2%に上昇させるという異次元緩和の"お告げ"だった。"お告げ"は当初、霊験あらたかだった。一挙に円安と株高が進み明るい雰囲気が広がった。景気は気からとばかりに、マスメディアも安倍政権と一体となって、今後の景気回復を囃し立てた。