▶ 2014年9月号 目次

「エボラの大流行」 感染症とどう付き合えばいいのか

木村良一


 エボラ出血熱のアウトブレイク(流行)には驚かされた。そのうちに収まるだろうと思っていたらさにあらず。わずか半年余りで西アフリカの国々に次々と広がり、1000人を超す死者を出したからである。その後も流行は続いている。
 1976年にザイール(現・コンゴ)のエボラ川流域で最初の患者が確認されて以来、最大の被害だという。WHO(世界保健機関)は8月8日、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、感染拡大の防止に努めるよう世界に呼びかけた。
 患者の血液、体液、嘔吐物に直接触れることで感染する。感染後平均10日で発病し、高熱を出してやがて目や鼻、腸など全身から出血し、最大で9割の人が命を落とす。基本的に有効性と安全性が確認された治療薬やワクチンはなく、対症療法しかない。まさにキラーウイルスである。
 西アフリカ地域では初めての流行で、未経験ゆえに住民や医療機関に予防や治療の知識がなかったという。医療態勢そのものも脆弱だった。周囲の目を気にして患者を隠してしまうケースもあった。亡くなった患者の体を水で洗い、その水を回し飲むような風習も問題だ。デマが蔓延し、武装した若者たちが患者の隔離施設を襲撃、患者が逃走する事件も起きた。
 エボラウイルスを封じ込めることはできるのだろうか。インフルエンザウイルスなどと比較して感染力は弱い。空気感染して次から次へと人に感染していくことはない。看病など患者と濃厚な接触がない限り感染はしない。感染者や患者をできる限り早く見つけ出して隔離、適切な治療を施していけば、感染の拡大は抑えることはできる。
 ただし新たな流行までは食い止められない。ウイルスの自然宿主は熱帯雨林にいるコウモリとみられ、そのコウモリに噛まれたサルや家畜から人に感染しているという。人の世界での拡大を封じ込めても、ウイルスは自然界に存在する。今回の流行が終息しても、また次の流行が起きる危険性は残る。つまりエボラウイルスを根絶することはできない。
 同じように人に大きな被害をもたらしたウイルスでも天然痘(疱瘡)は根絶できた。天然痘は発疹が体中にできて高熱を出し、古来から「悪魔の病気」と恐れられてきた。エジプトのミイラから発疹の痕が見つかっているし、ローマ帝国では全人口の3割前後を天然痘で失っている。日本では平安時代から鎌倉時代にかけて流行した記録があり、醍醐天皇や後鳥羽天皇が罹患している。