▶ 2014年10月号 目次

新聞の独善と驕り

陸井 叡


 先月(9月)18日、東京電力福島第一原子力発電所のサイトを訪れた。広大な敷地 、しかし、そこには所狭しと汚染水貯蔵タンク群が広がり、ALPS(アルプス)と呼ばれる汚染除去施設 ・多核種除去設備も見える。何より、サイトでは、これから気の遠くなる様な歳月と巨額の資金を投じて本格的に始まる四つの原子炉の廃炉作業が待ち受ける。
さて、こうしたサイト内の様々な作業の管理を見守る免震重要棟に入った。2011年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災に必死で対応した現地司令部である。TVなどでよく紹介される部屋、中央にロの字型に配置された多くの事務机の一つに今も当時のまま「本部長」と黒字で書かれた三角帽が残る。広い部屋のどこからでも見えるくらい背が高く大きい。吉田昌郎所長(当時、2013年死去)がその場所から指揮をとった。
朝日新聞の木村伊量社長が急遽、記者会見を開いたのは、今回のサイト訪問の一週間前、9月11日 夜の事だった。慰安婦を巡って報道した「吉田証言」が虚偽だった事 。更に、福島原発事故に関する「吉田調書」の記事も誤りだったとして 二つの「吉田」を取り消して謝罪した。
朝日新聞は、今年5月20日にスクープとして吉田昌郎所長(当時)が政府事故調査・検証委員会に答えた「吉田調書」を報道し、事故から間もなく所員らが「所長命令に違反 原発撤退」等と伝えた。だが、間もなく、読売新聞と産経新聞が調書を入手、朝日新聞の報道を否定するような内容を伝え、これを追うように、これ迄遺族からの許しがないとしていた安倍政権が公開に踏み切った。そして、調書を読んだ多くの人が、なぜ朝日新聞が「所長命令に違反して原発撤退」と大見出しを立てたのか首を傾げてしまった。調書には「命令違反」という記述は見あたらなかった。

慰安婦虚偽証言が何故かくも長く"ほうかむり"されていたのか、また、福島原発を巡る吉田調書の"歪曲"が何故そのまま記事となったのか、朝日新聞は調査委員会で検証すると言う。今回の "ほうかむり"、"歪曲"には朝日新聞のひとりよがり独善、そして、読者を見下す驕りが見えるという指摘がある。委員会では、事実関係の検証だけでなく 誤報を産んだ土壌にもメスを入れられるのか。