▶ 2014年11月号 目次
政治家とご意見番(下) 安倍晋三首相の場合
陸井 叡
2012年12月の安倍政権スタートから間もなく2年が過ぎようとしている。これまで順調に走ってきたようにも見える。株価は大幅に上昇し、円安も進んだ。そして、安倍首相の念願だった集団的自衛権の行使についても閣議決定まで持ち込む事ができた。更に、東京オリンピックの開催も決まり「安倍さんはツイている」と関係者から驚きの声が聞こえた。
だが、政界、一寸先は闇と言ってしまえばそれまでだが、9月はじめの内閣改造から間もなく看板閣僚として登用された5人の女性大臣のうち2人が政治と金の問題で辞任に追い込まれてしまった。そして、他の閣僚にも同様の疑惑が浮上しており、これまで青空を真っ直ぐに飛んでいた"安倍号"の先に俄かに黒雲が立ち登り始めている。
"安倍号"の先では、今月(11月)二つの問題が待ち受ける。先ず16日の沖縄知事選。自民党推薦の仲井真弘多現知事の苦戦が伝えられている。そして、翌日17日には 7月~9月 の経済成長率の速報が控える。既に発表されている多くの経済指標からみて安倍政権が目指す10%への消費税増税の実施を問題なく保証出来る高い成長率とはなりそうもないようだ。12月8日公表予定の確定報まで判断を待つかも知れない。消費税増税問題は、先送りすると、谷垣禎一自民党幹事長と連立与党公明党の山口那津男代表の二人の増税派から反撃を受けて、政争が芽生える可能性もある。
さて、こうした安倍政権の2年間を支えたご意見番、アドバイザーは誰だったのだろうか?まず、経済政策の面では、やはり、アメリカ ・イェール大学名誉教授の浜田宏一氏を挙げる事になるだろう。浜田氏は、大規模な金融緩和によってデフレから脱却出来るとする「貨幣数量説」の信奉者で、安倍首相は、同様の考えを持つ財務省出身の黒田東彦氏を日銀総裁に抜擢した。黒田総裁は、新発国債の凡そ70%を 事実上 直接 政府から買い上げるという手段で市中に大量の資金を投入、お札を刷るPrinting Machineとまで言われる程だ。
そして、もう一つ、安倍政権の集団的自衛権行使の閣議決定を支えたのは誰だったのだろうか? 先月(10月)29日 東京・築地の築地本願寺に故岡崎久彦元駐タイ大使を弔問する安倍首相の姿があった。実は、安倍首相の安保論議を懸命に裏方で支えたのはこの故岡崎氏をはじめとする外務省出身の長老達だった。戦後長く外交の実権を経済産業省など経済官庁に握られてきた外務省にとって安倍首相は、自衛隊の海外派遣などの外交カードをアメリカ等に切る多くのチャンスをくれる初めての存在と写った。長老達は、政府の懇談会 学会などにも席を持って安倍政権を援護射撃した。
ところで、安倍首相には、政策面でのご意見番はあったものの、政治哲学的なものを伝える安岡正篤氏のような 謂わば、考え方に深みを与えるご意見番は今の所見当たらないようだ。
陸井 叡 (叡Office代表 元NHK記者)