▶ 2014年12月号 目次

新聞の転回点だった2014年 ―朝日と読売― Ⅰ

高瀬仁平


2014年は既に、日本の新聞にとっての大きな転回点になったと考えている。象徴的なのが11月13日の朝日新聞朝刊だ。一面トップは、『来月総選挙へ 消費増税先送り検討』。二番手には、『本社「吉田調書」報道 報道と人権委見解 「公正で正確な姿勢に欠けた」』の記事が四段見出しで掲載されている。「吉田調書」報道とは、東京電力福島第一原発の元所長・吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書である「吉田調書」に関する朝日新聞の報道のことだ。5月20日朝刊のスクープ記事を朝日新聞は9月11日に取り消している。
  それがなぜ象徴的な紙面なのだろう。実は、「12月に総選挙がある」との報道は読売新聞が先行していた。11月に入るとともに観測記事が出始めてその量を増やし、次第に他社も追うようになる。結論から言えば、今回の総選挙報道は、政権との「阿吽の呼吸」で書かれている気がする。そしてこの「呼吸のリズム」は、第二次安倍政権の発足以来、読売新聞が持っているものだと言える。そこには、「日本のためには、政治の安定が不可欠である。それなくして経済の再生もない」とする、社の価値判断があると思える。
「提言報道」を掲げている読売だから、「政策提言」をすることは通常のことかもしれない。しかし、「解散、総選挙」という大きな政治ニュースの領域にまで踏み込むとしたら、やはり問題であろう。13日の朝日の総選挙の記事のリードは、「安倍晋三首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切る方針を固め・・・」と書き出されている。「方針を固め」という言葉は新聞記事では通常、「発表の前に、当社は動きをつかみました」というスクープ性を持つ局面で使われる。それが読売による「第一報」からかなり経ってから使われている。政権とメディアとの距離感に比例していないか。
朝日の「吉田調書」問題に入る前、少しだけ「おさらい」をしたい。戦後日本の新聞は「公正中立」と「客観報道」を建前にしてきた。「大本営発表」をそのまま流してきたことへの反省がある。半面そのことで、「新聞の中身が一緒」。「社説は当たり障りのないことしか書かない」などと批判もされては来たが・・・。