▶ 2014年12月号 目次

「何が医療従事者をエボラ出血熱に挑ませるのか」 エボラ専門医を取材した

木村良一


昨年末から西アフリカ(リベリア、ギニア、シエラレオネなど)を中心に感染が広がったエボラ出血熱。WHO(世界保健機関)によると、その感染者は1万5000人を超え、うち死者は5000人以上にも達している。未曾有のアウトブレイク(流行)である。
 この感染拡大を食い止めようと、欧米や日本など先進国からは医師や看護師ら医療従事者が現地に赴き、患者の治療を続けている。しかしエボラウイルスの特性上、患者と直接接する医療従事者が感染する危険性は高く、最悪の場合、命を落としかねない。
 それにもかかわらず、彼らはひるまない。その勇気には頭が下がる。何が医療従事者をエボラに挑ませるのか。今年5月と8月の2回、WHOのチームの一員としてリベリアに赴いて支援活動を行ってきたエボラ出血熱の専門医に話を聞いた。
 この専門医は45歳になる国立国際医療研究センター(東京都新宿区戸山)の国際感染症対策室医長、加藤康幸さん=写真。加藤さんはエボラなど致死率の高い出血熱に罹患した患者を治療する内科医であり、出血熱の研究者でもある。
 エボラウイルスはキラーウイルスと呼ばれ、感染するとその致死率は最大で9割と高い。加藤さんはリベリアの首都モンロビアでエボラウイルスに感染した患者を治療するとともに現地の医師や看護師らに感染防護の方法を教えてきた。5月のリベリアはまだ本格的なアウトブレイクはなく、加藤さんが派遣されたときはエボラ患者はゼロに落ちていた。ところが8月のリベリアは、仮設のユニット(隔離病棟)のベッドに30人以上の患者がぐったりと横たわっていた。
 加藤さんは「いままでに映像でエボラの患者を見たことはあったけど、直接治療するのは初めて。すごい光景だった」と振り返り、こう語る。
 「8月にリベリアに入ったときは米国人の医師が感染してしまい、治療のために米国に戻るところでした。私は入れ違いにその医師が治療行為を行っていたユニットに入りました。きちんと感染防護をしているはずの医師までも感染してしまう。知識のある専門家も感染する。自分も罹る可能性はゼロではない。そう思うとやはり怖かった」
 なぜ、加藤さんたち医療従事者は怖いと感じるのにもかかわらず、遠い西アフリカの地にまで赴いて患者の治療に当たるのか。
 その答えを導き出すのは難しいかもしれないが、加藤さんは「使命感というよりも私はエボラ出血熱という感染症そのものに関心がある。もちろん医師として患者を何とか助けてあげたいという気持ちは強い。しかしそれ以上にこの不思議な病気の実態を解明したいという研究心が強い」と話す。