▶ 2015年1月号 目次
知らぬが仏の有権者? -これから4年の安倍政権を見つめる-
陸井 叡
正月だからという訳ではないが「江戸いろはかるた」に"知らぬが仏"という言葉がある。故事来歴によると「物事は全てを知る必要はなく、詮索もしない方が万事うまく行く。知らなければ仏のように穏やかに過ごせる」という意味だという。
昨年末、2年ぶりの師走選挙となった。各党の獲得議席を見ると与党・自公は前回を若干上回ったが、民主党は増えたとはいえ100に遠く及ばず維新はほぼ横ばいだったもののいわゆる第三極は惨敗だった。その一つ「次世代の党」の石原慎太郎氏はその政界引退会見で共産党の大躍進について「若者の間に広まる所得格差対策を打ち出し成功した」と述べた。準備が間に合わなかったと語るだけの他の野党代表とは一味違う敗戦の弁だった。
さて、師走選挙を一見すると前回同様に安倍政権は大勝した。しかし、仔細にその得票率を見ると自民党は小選挙区で24%、比例区は僅かに17%でしかない。ここで敢えて、もし、比例区得票率で全議席を再分配したデータで各党の"実力"を評価するならば、例えば、自民党は157議席と今回獲得議席のほぼ半分にまでパワーダウンしてしまう。このデータが示しているのは自民党と対決すべき野党が、今回も結局乱立、潰し合いをしたという構図だ。これが安倍チルドレンと言われた大量の一年生議員の再選を許した。小泉チルドレン、小沢チルドレンが二度目の選挙で大量に落選したのとは大違いだった。野党は"ひよこ"議員にも勝てなかった。
今回の選挙では安倍政権の巧みな戦術が際だっていた。その一つは争点をアベノミクスの是非に絞って一点突破を図った事だろう。これまでの安倍政権の2年で安倍首相が最も情熱を燃やしたのは「憲法改正」「集団的自衛権」であった筈だが、選挙期間中この問題で国民と語ることは殆どなかった。
又、原子力発電所の再稼働についても同様だった。国民の意見が割れるこれらの問題に触れない作戦だったのだろう。
だが、第三次安倍政権がスタートすると、まず、安倍首相は「国民の信任を得た」と"宣言"、「憲法改正は歴史的チャレンジ」と語った。(12月24日記者会見)
憲法改正はこれから一年の議論を経て、来年2016年に入ると原案をまとめ、衆参各院の2/3以上の賛成が得られると、国会が発議、更に、国民投票で過半数を得て2016年中には実現させるというのが政権の描くシナリオのようだ。第三次安倍政権の任期は4年だが、任期半ば、これからほぼ2年後には安倍首相が念願を達成するという。
ところで、安倍首相に極めて近いとされる読売新聞が師走選挙の翌朝の社説でより大胆に首相の気持ちを"代弁"している。「今回示された民意を世論の分れる様々な重要政策の推進力として活用し、政治を前に進めることが肝要だ。」とし 具体的な政策として「新しい安全保障制度の整備、原発の再稼働など」だとしている。
ここでもう一度、今回の選挙結果振り返ってみる。予想されてはいたが投票率は52.66%と戦後の最低だった。つまり全有権者1億0396万人の凡そ47% 4900万人が棄権した。安倍政権の根幹である自民党は、先に得票率で見たように今回、有権者の20%程度しか獲得していない。これが"民意"の実相である。
棄権した凡そ5千万人とは一体どんな人々なのだろうか?きっと夫々に言い分があるだろう。だが、安倍政権にとっては、又、恐らく読売新聞にとっても棄権した人々は、もはや"知らぬが仏"ではないのか?「物事は全てを知る必要はなく、詮索もしない方が万事うまく行く。知らなければ仏のように穏やか
に過ごせる」と安倍政権が思っていなければ良いが。
陸井叡( 叡Office代表 )