▶ 2015年1月号 目次

STAP問題、報道も検証されるべきだ(下)

中島みゆき


■“ブラインド”会見、過剰演出、時間の制約
 それに加え1月28日、理研の会見場で異例な要素が次々と記者の前に現れた。関係者によると、会見案内には内容が記載されておらず、理研幹部に問い合わせると意味深長な答えが返ってきたという。よくわからないが期待値は高い状態で臨んだ会見で、記者はブランド服にヘアメイクばっちりの小保方氏と対面する。「Nature掲載」というお墨付きに加え、世界的研究者の笹井芳樹氏が研究成果を強調する。撮影を許された研究室では「ピンクの壁」「ムーミン」「割烹着」という過剰演出3点セットが目に飛び込んでくる。
 この会見について、雑誌「広告批評」元編集者の河尻亨一さんは「PRと考えるとプロ級。制限された時間の中でそこに飛びついてしまった気持ちもわかる」指摘。懐かしいもの(割烹着、カメ、ムーミン)と先端的なもの(オシャレな研究室、ブランド服)、庶民性と上流性、身体性と知性など相反する要素の提示に「デート」「お風呂」といった色モノ要素も加わり、ストーリーを作りやすい多面的な座標軸が形成されていたと分析した(TBSメディア総研あやとりブログ2014年4月25日)。さらに、記者は解禁までの正味1日で新規性や社会的意義の検討、記事・図表の作成、関連取材などを行う必要があった。時間的制約も提示された要素に飛びつく要因の一つと考えられる。

■誰にでも起こりうる「注意の錯覚」
 では会見に不自然な要素はなかったのか。ネット上では報道直後から細胞培養を行う研究室に報道陣を入れることの異様さ、「紅茶程度の弱酸性液に約25分」などとする説明の曖昧さなどが指摘されていた。「特定国立研究開発法人」選定直前という時期的絶妙さもあった。にもかかわらず万歳報道はしばらく続く。
 1999年にハーバード大学で行われた「見えないゴリラ」の実験がこうした状況を説明してくれるように思う。この実験で研究者は白いシャツを着たチームと黒いシャツを着たチームがバスケットの試合をする短いビデオを作成し、実験参加者に白いシャツの選手がパスをする回数を数えさせた。ビデオ中9秒ほどゴリラの気ぐるみを着た女子学生が登場しカメラ前で胸を叩くが、参加者の約半数がゴリラに気づかなかった。実験を行ったチャブリスとシモンズは「体験の鮮明さが精神的な盲目状態を生み出した」と結論づけ、このような現象を「注意の錯覚」と呼んだ。「錯覚」のメカニズムは近年脳科学的にも解明されつつある。