▶ 2015年2月号 目次

風刺画銃撃テロ 表現の自由をどう考える

木村良一


 表現の自由…。これについてこれほど考えさせられたことはない。イスラム教の予言者ムハンマドを扱った風刺画を掲載したフランス週刊紙シャルリー・エブドのパリ本社が、襲撃されたテロ事件である。
 1月7日に事件が起きると、日本の新聞各紙は9日付朝刊紙面で「表現の自由を暴力で踏みにじる行為は許されない」という趣旨の社説を一斉に掲載し、テロの卑劣さと表現の自由の重要性を強く訴えた。しかし事件から一週間後にシャルリー・エブドが特別号でムハンマドの風刺画を再び掲載すると、各紙の社説のトーンが変わってくる。
 事件から一週間以上が経過した16日付朝刊の読売新聞の社説は「テロに屈しないという意志表示だろう。だが、イスラム教徒を刺激し、新たな対立の火種とならないか。懸念される」と書き出し、特別号の発行を批判した。
 特別号の問題の風刺画は、ムハンマドが「私はシャルリー」と書かれたプラカードを手に涙を流しながら連帯を示すもので、「すべて許される」との見出しも付いている。
 読売の社説によれば、通常は4万5000部の発行のところを特別号は500万部まで増刷され、売り切れの販売店も相次いだ。社説は、「表現の自由」を守ろうとするフランス世論の高まりがうかがえるなどと述べた後、「風刺画がフランスでは『表現の自由』であっても、イスラム教徒にとっては『宗教への冒瀆』となる」と指摘し、「報道機関は、記事などが社会に及ぼす影響を十分に考慮し、掲載する必要がある。受け取る側の多様な価値観を尊重する精神こそが、成熟した民主主義社会の基盤となる」と主張する。
 毎日新聞の社説(同日付)も「表現すること 他者を尊重する心も」との見出しを付け、「表現の自由を守りつつ、宗教の違いなど価値観を異にする者が共存できる社会のありようを模索することこそ、必要なはずだ」と訴える。そのうえで「表現の自由は、多様な価値観を尊重しあう社会のためにこそ、守られるべきものであるはずだ。それには自分の価値観と同様に、他者の価値観も尊重することが大切である」と強調する。
 朝日新聞は19日付朝刊に「表現と冒瀆 境界を越える想像力を」との見出しを付けた社説を掲載し、「自分にとっては当たり前に思える常識や正義が、他者にとっては必ずしもそうではないという想像力。それがあっての自由である」と説く。