▶ 2015年5月号 目次

<シネマ・エッセー> 悪党に粛清を

磯貝喜兵衛


映画が活動写真と言われた戦前、大阪の場末に「ヤマト館」という洋画専門の小さな映画館があった。小学生のくせに映画好きだった私は、お小遣いの50銭玉を握ると、歩いてそこへ行くのがもどかしく、いつも走っていたのを今でも思い出す。そこで従兄弟たちと一緒に見たのが、ターザンであり、西部劇だった。

西部劇の名作、ジョン・フォード監督の『駅馬車』が日本で封切られたのは、太平洋戦争直前の1940年だったそうだ。ジョン・ウエイン扮するカーボーイが、疾走する駅馬車から襲撃者と撃ちあうシーンに少年たちはどれほど胸を躍らせたことか。

その西部劇も戦後、時代は変わって、イタリア製のマカロニ・ウエスタンから、さらにデンマーク製の”バイキング・ウエスタン”の新時代に入ったのか(?)と思わせるのが、クリスチャン・レヴリング監督、マッツ・ミケルセン主演の『悪党に粛清を』だ。

ミケルセンといえば3年近く前に見たデンマーク映画『偽りなき者』(トマス・ヴィンターベア監督)での個性的な教師の演技が印象に残っている。小学生の女の子がふとした嘘をついたため、離婚後一人で子育てもしている教師が村人たちから不当に糾弾され、それに打ち勝とうとする悲劇的な役柄が、独特のマスクと一致して奇妙に光っていた。