▶ 2015年5月号 目次

水深44mからのメッセージ
~セウォル号事故と報道姿勢~(上)

羽太 宣博


2014年4月16日、韓国南西部のチンド(珍島)沖で、旅客船「セウォル号」(6825トン)が沈没した。乗客・乗員476人のうち、修学旅行の高校生ら295人が死亡、依然9人が行方不明となっている。その船体は今、水深44mの海底に横たわっている。
セウォル号の事故では、海洋警察による救助活動の不手際が相次いで明るみに出て、厳しい批判を浴びた。また、船長らいわゆる「船舶職」の乗員15人が救助活動を怠ったまま全員救助され、その無責任な対応に遺族の憤まんがいっきに高まった。さらに、沈没の原因が明らかになるにつれ、海の安全を守るべき関係当局が利益と効率を優先させる海運業界と癒着し、海や船舶の安全対策をないがしろにしてきた構図も浮かびあがった。
事故から1年の日、韓国では全国120か所以上で追悼式が行なわれた。事故現場に近い珍島の港には、外遊を控えたパク・クネ(朴槿恵)大統領も弔問に訪れた。しかし、希望した遺族との面会はできず、焼香もかなわなかった。生徒が犠牲となった高校のある安山市では、遺族がイ・ワング(李完九)首相の弔問を拒否。追悼式そのものが中止となる異例の事態となった。
今なお、事故の真相解明を強く求める遺族。朴政権との間には大きな溝のあることが改めて浮き彫りとなった。セウォル号事故が問いかけたものは、あまりにも多い。韓国社会の「安全意識の希薄さ」、海運行政をめぐる「官民癒着」の長年にわたる構図などと並び、何の罪もない娘や息子、肉親を奪われた遺族にどう向き合ったのかという「報道姿勢」も見逃すわけにはいかない。
筆者は、事故当時、韓国KBSの国際放送「KBSワールドラジオ」の日本語班で、「校閲委員」の立場にあった。校閲委員とは、KBSや通信社のニュースから作成した日本語原稿を校閲するのを主な業務とする。そのニュースの現場から、韓国のメディアがセウォル号事故にどう向き合ったのかを見守ってきた。本稿では、この事故に対するKBSの報道姿勢をめぐって沸き起こった論議について、ジャーナリズムの観点から検証したい。