▶ 2015年6月号 目次

<シネマ・エッセー> 沖縄 うりずんの雨

磯貝 喜兵衛


監督のジャン・ユンカーマンは1952年アメリカ・ミルウォーキー生まれだが、17歳のときに慶應義塾志木高校に留学したのち、スタンフォード大学卒業という経歴の持ち主で、『劫火・ヒロシマからの旅』(1986)や『映画 日本国憲法』(2005年)など、日本を題材にした記録映画作品が多い。

戦争、占領、基地という沖縄の苦難の歴史を、4年の歳月をかけて2時間半の長編ドキュメンタリー映画にまとめ、この夏全国公開する。題名の「うりずんの雨」は冬が終わって大地が潤う3月から入梅の5月にかけての雨のことで、この時期に悲惨な沖縄地上戦があったことから映画のタイトルになったという。

琉球王朝の時代から、平和な地として知られる沖縄全島が戦火に包まれた悲劇は、これまでも『ひめゆりの塔』(1953年、今井正監督)など数多く作られてきたが、アメリカ人の映画作家が戦後70年の今、沖縄の苦難の歴史と取り組んだ意義は大きい。試写会を終わったあとの挨拶で、「この映画の背後に何があるか。沖縄の現実を見直してほしい」と語っていたのも印象に残った。

学徒隊として戦闘を体験した大田昌秀・元沖縄県知事をはじめ、壕内での集団自決から生き残った知花カマドさん、女子学徒隊員で捕虜になった稲福マサさんはじめ、戦闘に参加した日米軍人らがインタビューに答えて実体験を語り、米国立公文館の実写フィルムと合わせて、沖縄戦の悲惨さを再現した。