▶ 2015年7月号 目次

「メディア・ナショナリズム」を考える
〜慶應義塾大学綱町三田会ミニゼミから〜

牧之内芽衣


 5月20日、2015年度初回の綱町三田会ミニゼミが、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた。今回設定されたテーマは「メディア・ナショナリズム」である。「メディア・ナショナリズム」とは、「マスメディア、およびインターネットなどのニューメディアの普及が、国民国家のナショナリズムを増幅させる一連の現象」として、大石裕・山本信人編著『メディア•ナショナリズムのゆくえ 「日中摩擦」を検証する』(朝日出版社、2006年)で定義された概念だ。学生たちは軍艦島をはじめとする明治の産業革命の世界遺産登録勧告の報道などを足掛かりに、ナショナルで固定的なものの見方が広まっている現状に問題意識を抱き、レポートを作成した。それを元に、メディア・コミュニケーション研究所の学生と担当教授、そして研究所出身のジャーナリストらが議論を交わした。
 マスメディアが国籍を離れることができないという性質は周知の通りである。つまり、マスメディアはオリンピックや世界遺産のような国を挙げてのメディア・イベント、すなわち国家レベルの支配的価値観とは切り離せない関係にある。2015年5月5日、朝刊の一面を飾ったのは世界遺産の四文字だった。ユネスコの諮問機関が登録を勧告したのは8県にわたる23もの遺産。「シリアルノミネーション」という手法で「明治日本の産業革命遺産」として登録が勧告されたということで、折しもゴールデンウィークのまっただ中、日本中に祝賀のムードが溢れかえった。一方、韓国では「軍艦島」と呼ばれる端島炭坑など7施設で過去に強制労働があったとして登録に反対の声が上がった。