▶ 2015年7月号 目次

新国立競技場「無責任の体系」断ち切れ

中島みゆき


 新国立競技場が現行デザイン案のまま総工費2520億円で建設されることが決まった。6月29日の2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の調整会議で下村博文・文部科学相から報告された。詳細は7月7日に事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)が開催する将来構想有識者会議で明らかにされる予定だが、北京五輪スタジアム建設費の5倍にも及ぶ建設費の調達めども、五輪後の維持費確保のめども立たない中での“見切り発車”には批判の声も強い。下村文相自身が「責任の所在が不明確」とする「国家的プロジェクト」は、どのような構図で進められるているのか、このまま突き進んでよいのだろうか。
●「人間不在の計画」
 五輪調整会議と同じ29日、都庁で新国立競技場建設のため都市計画上の用途許可を諮る東京都建築審査会(議長=河島均・元都都市整備局長)が開かれた。この案件には近隣住民や立ち退きを迫られている都営霞ヶ丘アパート住民代表らから反対意見が表明されていたが、河島委員は「霞ヶ丘アパート敷地は、競技場の人工地盤から人が降りていくために一体的整備が必要。自発的な移転を願うのは違うのではないか」と強制執行をにおわせる発言をもした上で、同意をとりまとめた。
 神宮外苑は本来15mを超す建物が建たない風致地区だが2013年6月に高さ制限を75mに大幅緩和する地区計画が決定された。この日の決定はこの地区計画を根拠とする。デザイン決定後の地区計画決定には批判も根強く、審査会でも建築担当の委員から「最大限市民の意見を吸い上げ、未来の世代から歓迎される競技場を」との意見表明があった。また行政担当の委員が近隣住民の意見に出てくる数字と行政の説明する数字に齟齬があることを指摘し「十分な説明はされたか」という質問もあったが、適切な回答はなされなかった。
 霞ヶ丘アパートは1964年五輪のために立ち退いた人たちが暮らしている。傍聴に訪れた住民代表は審査会終了後「高齢化が進み介護を要する住民を地域コミュニティーで支えていたが分断された。人間不在の計画だ」と怒りを漏らした。他の傍聴人からも「都のOBが議長の『審査会』にどれだけの公正さがあるのか」と疑問の声が上がった。
●膨れ上がった建設費
 新国立競技場については2012年7月に文科省所管の独立行政法人、日本スポーツ振興センター(JSC)が「今世紀最大の国家プロジェクト」として国際コンクールを行い、建築家の安藤忠雄さんを審査委員長とする「有識者会議」が同年11月、イラク出身の建築家、ザハ・ハディドさんを「デザイン監修者」として選んだ。