▶ 2015年8月号 目次

<シネマ・エッセー> 夏をゆく人々

磯貝 喜兵衛


ジェルソミーナと言えば、フェデリコ・フェリーニの名作「道」(1954年)を思い出す。道化の格好でトランペットを吹く旅芸人の少女(ジュリエッタ・マシーナ)と、悲しげな曲が耳に残っている。昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『夏をゆく人々』のヒロインもジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)という名の、どこか憂いを含んだ13歳の美少女である。

イタリア中部トスカーナ地方の人里離れた湖畔には古代エトルリアの遺跡が残っていて、そこで養蜂を営む農家の長女、ジェルソミーナは妹と共にドイツ人の父から蜂の飼育と蜂蜜製造のハードな仕事を仕込まれている。

もう二人の妹は双生児で、4人ともイタリア人の母との混血。この映画で一躍世界に認められた女性監督のアリーチェ・ロルヴァケル(33)も、母親役の姉(アルバ・ロルヴァケル)も独伊混血で養蜂家に育ったというから、どこかに自伝的要素がひそんでいるのだろう。

決して豊かではない、素朴な毎日を送る一家がある日突然、盗みと放火で(日本流に言えば)「保護観察中」のドイツ人少年を預かることになる。折しも地方のテレビ局がエトルリア文化を紹介し、その典型的な家庭を選ぶ<ふしぎの国>という番組の取材に来ているのと遭遇し、一家もそれに巻き込まれる。