▶ 2015年9月号 目次

「御巣鷹30年」ボ社は修理ミスを犯した理由を明らかにすべきだ

木村良一


30周年を迎えただけあって8月12日前後のテレビや新聞の報道は例年になく多かった。日航ジャンボ機墜落事故のことだ。この「メッセージ@pen」でも「教訓を忘れるな」というタイトルで5月号と8月号に取り上げた。
 その2回の原稿の中で書こうか、それとも書くまいかと迷った末、そのままになっていた主張が2つある。御巣鷹の事故から30年という熱気が冷めやらぬうちにここに書き留めておきたい。
 ひとつは事故原因の特定に関してだ。日航機は墜落事故を起こす7年前の尻もち事故で後部圧力隔壁を破損した。修理を担当した米ボーイング社の修理チームは、損傷した圧力隔壁の下半分を交換した際、指示書通りの修理をしないで2枚に切った継ぎ板を使った。
 なぜ強度が弱まるような修理を行ったのか。これについてボ社は一切、説明していない。1987(昭和62)年に公表された運輸省事故調査委員会の報告書は、事故原因を「ボ社の不適切な修理ミスに起因する」としている。ボ社も修理ミスを認めている。30年が経過したいまでも遅くはない。世界の空から航空事故を少しでもなくすためにボ社は修理ミスを犯した理由を明らかにすべきだ。
 事故調査の過程で事調は委員を渡米させ、ボ社に「修理作業をした担当者から話を聞きたい」と申し出た。しかしボ社は応じなかった。その理由は刑事訴追を恐れたからだといわれる。
 日本では警察庁と運輸省との間で「事故調査は犯罪捜査に支障をきたさないようにする」との取り決めが、1972(昭和47)年に結ばれている。公判でも事故調の調査報告書が操縦士や管制官の過失を裏付ける証拠として採用されてきた。
 しかし米国では航空事故調査の目的は、操縦士らを罰することにあるのではなく、事故の原因を探り出して再発防止に役立てるところにある。調査と刑事捜査を明確に分け、過失は故意の場合を除いて免責する。ひとたび航空事故が起きると、大勢の人の命が奪われる危険があるからこそ、事故原因の解明が優先される。
 一方、日本では刑事責任の追及によって原因を究明しようという考え方が根強い。米国とは文化自体が違うからだろう。刑事責任は問わない。その代わりに本当のことを話してもらう。日本もこう制度を変えていく必要がある。