▶ 2015年10月号 目次

<シネマ・エッセー> アメリカン ドリーマー

磯貝 喜兵衛


1981年といえばレーガン大統領がワシントンの路上で狙撃され、ロスアンゼルスで三浦和義の妻の一美さんが銃撃される事件があった。ベトナム戦争の残酷さを描いた「地獄の黙示録」や「プラトーン」「ディアハンター」などが上映されたのもこの頃で、ニューヨークの地下鉄は落書きだらけの荒んだ光景が見られ、統計史上最も犯罪が多発した年だという。

この映画の原題もA Most Violent Year. 中南米移民の主人公、アベル・モラレス(オスカー・アイザック)は夫婦で力を合わせて小さなオイルカンパニーを経営する”アメリカン ドリーマー”だが、4人家族の彼らに突然、暴力的事件が容赦なく降りかかる。

終戦直後の混乱期、神戸では暴力団などが銃器を持って暴れた時代が日本にもあった。1960年代大阪で事件記者をしていた頃も、日本で最大の組織暴力団だった神戸の山口組が全国的に勢力を広げ、各地で抗争や暴力沙汰を起こし、その取材に走り回ったことを思い出すが、ベトナム戦争後のアメリカでこれほど無秩序に暴力と犯罪が横行していたとは驚きだった。

この映画ではモラレス夫婦がやっと手に入れたニューヨーク下町の家の周囲で、マフィア集団が石油タンク車を襲ってガソリンを車ごと奪い取る事件が続き、運転手たちに銃器の携帯を認めないモラレスは、計画的に石油トラックを襲ってくる犯罪者たちにドンドン窮地へ追い込まて行く。