▶ 2015年11月号 目次
共産党は野党再編をリードできるか~選挙協力に照準を~
栗原 猛
共産党の志位和夫委員長が、安倍政権打倒を掲げて連合政府構想を打ちだし、日米安保条約容認、自衛隊の武力攻撃対処活動の是認を表明した。他の野党が政府批判をしたり、一方で離合集散含みの情勢にある中で、存在感をアピールした。野党が日本の政治の行方に絡んで大きな話題になったのは久しぶりのことではないか。
提案の柱に、日米安保条約容認、自衛隊の武力攻撃対処活動の是認をはじめ戦争法廃止、そのために国民連合政府、野党の選挙協力、昨年7月の集団的自衛権の承認の閣議決定の撤回などを挙げている。
国民連合政府をつくるために党是ともいえる「日米安保条約の廃棄」は「横に置く」というから、「清水の舞台から飛び降りた」といわれるほどの現実路線だ。また同党はこれまでほぼ全選挙区に候補者を立ててきたが、選挙協力のためには引っ込めてもよいとまで言及した。来年の参院選をにらんだ対応だろう。
既に民主、社民、生活の各党党首に話を持ちかけているといわれ、生活の党の小沢一郎代表からは「頭の切り替えが素晴らしい」と、評価されたという。政局のプロ、小沢氏の言葉だから、何か感じるものがあったのかもしれない。
本来なら野党第1党の民主党が野党のリーダーとして野党結集の音頭をとってしかるべきところだが、1強多弱政治の中でこうした動きが出てきたことは歓迎すべきであろう。
ただ気になるところがある。志位氏は国民連合政府構想が安部政権打倒のアプローチとして「確信」していると踏み込んでいるが、今の民主党を見ていて「この指とまれ」というわけにいくかである。むしろ難しいのではないか。同党では細野豪志政調会長が反対して岡田克也代表を批判している。
また過去には、「共創協定」あるいは「社共連合政権構想」、大衆運動の分野では、核実験廃止を目指す原水爆禁止協議会行動など、共産党と他の野党と連携によって政治状況を変革する動きがいくつかあったが、いずれも歩み寄りと融和精神が十分でなく挫折している。
1強多弱政治が続き、国会の風景はすっかり変わった。安全保障関連法、マイナンバー法など重要法案が、国民の批判がある中で国会を通って行く。問題山積の環太平洋経済連携協定(TPP)、原発再開、辺野古埋立て再開、政治とカネ、政治家の不祥事などはいずれも国会で論議が必要なテーマだが、安倍政権は国会を開いて国民に説明がない。ここは野党が協力してパワーを発揮すべきである。
中央官庁の事務次官経験者は「政権党が巨大になると、日本の内閣制度が想定している以上の権限が、首相官邸に集まり、十分な議論がなしに事が進められると行政がいびつになる。かつての自民党には権力者として自制があった」と語っている。
一強多弱、多勢に無勢だとあきらめの機運も漂うが、ここは国会議員になった初心に返って、力を合わせて巨大与党に立ち向かう場面である。議会政治では野党は政府や与党を絶えずチェックしていて問題があれば、国会で侃々諤々の議論をして正させるという重要な使命がある。
先の宮城県議選で、共産党は倍増した。自民党もわずかだが議席を減らしたが、結局、共産党が増えた分は民主党が減らしているから、野党内で票の行き来があった格好になっている。細野氏らには共産党と選挙協力しても、共産党に浸食されるだけではないかかという不安があるのだろう。
では共産党はどうすればいいか。他の野党の主張や政策についても、許容範囲を広げて柔軟に対応できるかではないか。政策転換よりもその点に着目していきたいところである。
参院選挙は来年夏だといっても、1月早々から通常国会が始まるといわれることから、選挙態勢づくりに十分かける時間はない。年が明ければ参院選はすぐだ。志位氏が提案する「国民連合政府」は直ぐには無理だろう。共産党はまずこれを当面、棚に上げにして選挙協力だけに絞って野党協力できる環境づくりをするべきではないか。
ここに興味深い資料がある。共同通信の試算によるものだが、安全保障関連法廃止を目指す野党5党の選挙協力が実現し統一候補を立てた場合、2014年衆院選小選挙区の得票に基づく、16年参院選の改選1人区32のうち8選挙区で、野党が与党候補に勝利するというのである。
自民党では既に民主党に対する切り崩しの工作が始まり、また野党不信を煽って投票率を上げない研究も進められているという。大死一番、共産党はまず「国民連合政府」という高いハードルを下げて、野党勢の選挙協力に的を絞った環境づくりを急ぐべきではないか。
栗原 猛(ジャーナリスト)