▶ 2016年1月号 目次

旅の始まり - 2016年・日本 -

陸井 叡


 「小沢さんは懸命にやっていますよ」と語るのは元大蔵省(現財務省)事務次官。"小沢さん"とは元民主党党首、小沢一郎氏のことだ。この元次官は官僚ながら小沢氏の影のブレーンとして、民主党政権の成立、崩壊までを支えた。その小沢氏が久しぶりに話題となったのは、 先月(2015年12月)15日東京・青山であった会合の席上だった。かって元次官を取材していた 政治・経済担当の記者を含め6人が議論に参加した。
 議論は、先ずその日の直前に決着した消費税軽減税率から始まった。安倍政権が必要財源1兆円の当てがないにもかかわらず、与党公明党の言うがままに税を"まける"という騒動となった。そして、これをみた前大阪市長橋下徹氏は自身のツイッター上で「(自公連立政権は)これで憲法改正のプロセスを完全に踏んだ。来年(2016年)夏の参院選で2/3(議席)を達成すれば、いよいよ憲法改正だ」と発信した。今回の軽減税率騒ぎが、実は安倍政権が悲願とする憲法改正への道を開く事になったとする間髪を入れない指摘は、矢張り並外れた政治勘を持つ橋下氏ならではの"一矢"だった。
 東京・青山の会合に戻ろう。今年夏の参院選に野党はどう臨むのか?一昨年の暮れの衆院選では、特に一人区で野党候補が乱立して票を喰い合い"漁夫の利"を安倍政権にさらわれた。得票数では過半に達していないのに、獲得議席数では安倍政権"独裁"が更に強化された。
 小沢一郎氏は、夏の参院選では特に一人区で野党が統一候補を立てるべきだと説く。その統一旗印は憲法改正阻止と主張する。だが、これに即応したのは日本共産党だけだった。共産党は、天皇制批判のこれまでの立場を"凍結"して今月4日の通常国会に出席、天皇陛下のお言葉を聞くという。又、日本の戦後政治史で初めて本格的な政権交代を果たした小沢一郎氏を"軍師"として、頻繁に意見交換しているともいう。
 一方、野党第一党の民主党の動きは相変わらず鈍い。他の野党との選挙協力も話し合いが進展しているとは言い難い状況だ。"悪魔"とも必要であれば手を結ぶと恐れられた小沢一郎氏が去った後の民主党は、まるで座して死を待つかのようだ。だが、自民党はそうした民主党を前にしても攻撃の手をゆるめない。夏の参院選に衆院選をぶつけるという選挙戦略が水面下で進む。2017年4月に予定する消費税10%への引き上げの後の総選挙では戦いが厳しいという判断から、むしろ早めの衆参同日選挙を視野に入れているようだ。当然、野党の準備が進んでいない事も計算済みだ。