▶ 2016年1月号 目次

「化血研の不正」 薬はだれのためにあるのか

木村良一


一般財団法人・化学及(および)血清療法研究所(化血研、熊本市)が、40年以上も前から血液製剤やワクチンを未承認の方法で製造し、その事実を隠蔽していた。昨年暮れのニュースである。化血研は薬害エイズ訴訟(民事)の被告企業のひとつで、激しい批判にさらされ、猛反省したはず。それがなぜ、患者を裏切るような行為を続けていたのか。あの反省は嘘で塗り固められたものだったのか。薬害エイズの問題を取材しきた新聞記者のひとりとして驚かされるばかりだ。
昨年12月2日、化血研を調査していた第三者委員会が調査報告書を公表した。その報告書によると、化血研は1974年以降、血液製剤やワクチンを製造する過程で起きた問題を解決するため、添加物を勝手に加えるなどしていた。血液製剤は人の血液から作られる医薬品だ。国から承認された方法とは異なる製法にもかかわらず、承認申請をしていなかった。致命的な安全上の問題はないというが、医薬品は患者の命に直結する。本当に大丈夫なのか。
なぜ化血研は国の承認を受けようとしなかったのか。ひとつが1980年代後半から90年代前半の薬害エイズだ。輸入された非加熱製剤にエイズウイルス(HIV)が含まれ、社会問題となり、東京地検が捜査する大事件にも発展した。国は加熱された安全な血液製剤の国内での増産を求めた。化血研はこの方針に従って利益を得ようと、早期生産や安定供給を最優先したという。
もうひとつが研究者のおおごりだ。「自分たちは製薬の専門家。厚労省よりも知識がある。製造方法を改善しているのだから多少ごまかしても問題はない」という体質が化血研にあった。第三者委員会も同じように指摘している。
隠蔽工作は研究者集団だけにかなり凝ったものだった。国の査察で不正が見破られないようにするため、紫外線を照射して製造記録書を過去のもののように古く見せかけ、筆跡も過去の関係者のそれに似せていた。
第三者委員会は「極めて悪質な違法行為を組織的に隠蔽した」と断じた。その通りである。医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づいて立ち入り調査を受け、業務改善命令などの行政処分を科されるのは当然だ。生物テロなどに使われる危険があるボツリヌス毒素を無届けで運搬していた問題も浮上、厚生労働省は刑事告発に踏み切るべきである。