▶ 2016年1月号 目次
「日本遺産」認定・尾道のブランド化を支援
山形良樹
年金生活に入り早1年が経とうとしています。平成27年2月に65歳になり、会社を完全リタイヤしたからです。毎日が日曜日になったのは良いのですが、一番困ったのは会社支給の名刺が無くなったことです。肩書きにこだわっている訳ではありませんが、初対面の人には、私という人物を覚えてもらうため名刺があると便利です。そこで役立っているのが「尾道観光大志」の名刺です。
私の郷里・広島県尾道市では、県外の人に対して尾道市の魅力をアピールしてもらう人を「尾道観光大志」と名づけ、行く先々で名刺を手渡してもらって尾道の観光を売り込んでいます。観光大使は、その地域にゆかりのある芸能人や有名人が選ばれる例が多いのですが、地域振興のため一般市民や地元以外の人にPRを委嘱する「ふるさと大使」が全国的に広がっていて、「尾道観光大志」も尾道市が一般から募集しています。
2年目の平成27年度は、全国から私を含む168人が任命されました。名刺の裏には尾道市立美術館や因島水軍城などの無料入場券と平山郁夫美術館の半額券が印刷されていて、1枚の名刺でいずれか1施設の優待を最大5人まで受けることが出来ます。観光大使の名刺は、一般的には施設の割引止まりが多いのですが、尾道は入館無料もあるのが特徴で、手渡す相手も喜んでくれ、名刺そのものの価値があります。さらに2年目の名刺には「日本遺産」のロゴマークが付きました。
「日本遺産」は、文化庁が平成27年度から創設した制度で、地域に点在する有形・無形の文化財をパッケージ化し、我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」に認定する仕組みで、歴史的魅力に溢れた文化財群を地域主体で総合的に整備・活用し、世界に戦略的に発信することにより、地域の活性化を図ります。尾道市は、「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」として、18件の日本遺産の一つに選ばれ、ロゴマークを使用できるようになったのです。
尾道市では、文化庁からの補助金約4200万円を使って、日本遺産尾道のイメージポスターや総合パンフレットを5カ国語で制作して主要ターミナルや旅行関連会社に配布したり、観光客向けに多言語の紹介アプリを制作したりするほか、市内3箇所にビジターセンターを設けて、和式トイレを洋式トイレに改修するなどして地域活性化に弾みをつけることにしています。
追い風の吹く尾道ですが、残念なこともあります。尾道市東京事務所が今年(平成28年)3月で閉鎖されることになったのです。東京事務所は、尾道の経済団体や企業が首都圏で事業展開する拠点として、平成16年1月に開設されました。自治体の東京事務所と言えば、国会がある永田町や省庁が集まる霞ヶ関の周辺にあって、国との交渉や情報収集などが主たる業務ですが、尾道市の場合は、事務所の機能を地元企業の商談の場や、企業立地の推進、観光・物産情報の発信などとしていて他とは役割が異なっています。ユニークな存在の尾道市東京事務所ですが、近年利用率が低迷し、現在入居している大手町のビルの再開発に伴って立ち退きを余儀なくされたこともあり、一定の役割は終わったとして12年の歴史に幕を閉じることになりました。
尾道市東京事務所は、私が幹事を務める尾道サポーターの会(人的ネットワークを活かして尾道の活性化を後押しする会、会員は尾道市出身者や尾道にゆかりのある首都圏在住者約250人)の事務局機能も持っており、尾道市では事務局を市役所内に移す予定ですが、サポーターの会では今後の活動が制約を受けかねないとして頭を痛めています。
少々暗い話になってしまいましたが、地元尾道では新しい動きも出ています。私の高校の同級生が中心になって「尾道もりあげ隊」が結成され、去年(平成27年)の11月、商店街の一角に事務所がオープンしました。もりあげ隊は、尾道市の価値を見出し、市の発展に寄与すべく行動し、あわせて隊員相互の親睦を深めるのが目的で、地域産業・地域文化の担い手の確保と継承、関係諸団体との連携などを主な事業とし、隊員20人あまりでスタートしました。私も発起人の一人で、もりあげ隊の事務所には、高校の同級生の他、尾道サポーターの会のメンバーやFACEBOOKの尾道倶楽部で繋がっている人たちが自由に出入りして、市民レベルで尾道の活性化に一役買うことになります。
人口減少や財政赤字など日本の地域を取り巻く現状は極めて厳しくなっており、将来的には都市集積の進む「発展地域」と人口減少・流出が進む「衰退地域」の二極化が顕在化するとの指摘もあります。地方分権の進展とともに地方自治体同士の競争は、ふるさと納税の税収争いに見られるように激しさを増しています。尾道市が地域の魅力を増してブランド価値を高められるように、尾道サポーターの会や尾道もりあげ隊の活動を通して支援していこうと考えています。
山形良樹(元NHK記者)