▶ 2016年1月号 目次

<シネマ・エッセー> フランス組曲

磯貝 喜兵衛


 アウシュビッツに散った作家、イレーヌ・ネミロフスキーの遺著『フランス組曲』(平岡敦訳・白水社)は、著者の死後60年以上がたって娘が保管していたトランクから手書きの原稿が発見され、世界中でベストセラーになった。私も昨年興味深く読んだが、英、仏、ベルギー合作で映画化され、1月8日から全国ロードショーで上映される。

 第2次大戦が始まった翌1940年6月、フランス中部の田舎町、ビュシーにもドイツ占領軍がやってくる。無防備都市となったパリからは避難民も押しかけ、町は異様な雰囲気に包まれている。

 夫がフランス軍に出征したあと地主の義母と留守宅を守るリュシルの家にも、ドイツ軍のブルーノ中尉が宿泊。元作曲家でピアノを弾き、紳士的なブルノーに好意を持つリュシルに対し、義母は「息子は捕虜になって強制収容所へ連行された。ドイツ人は憎むべき敵!」と反発する。

 占領軍と町民の間で様々な混乱が起きるが、中でもブルーノの同僚、ボネ中尉はリュシルの家の小作人、ブノワの妻によこしまな欲望をむき出しにし、のちにボネ中尉の殺人事件の伏線になるのだが、それを食い止めようとするリュシルとブルーノ中尉の努力が二人の恋の起爆剤になってゆく。