▶ 2016年3月号 目次

「ジカ熱と小頭症」感染拡大の向こうに健康弱者がいる

木村良一


 WHO(世界保健機関)が2月1日、蚊が媒介する感染症の「ジカ熱」について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。緊急事態宣言は、一昨年8月のエボラ出血熱以来のことである。
 ブラジルなど中南米でアウトブレイク(流行)し、日本でもブラジルから帰国した川崎市の高校生が感染していたことが最近、分かった。このジカ熱、妊婦が感染すると、小頭症の子供が生まれる危険性が指摘されている。
 今回はジカ熱を取り上げ、WHOの対応などについて考えていきたい。
 ジカ熱はジカウイルスを持つ蚊に刺されて感染する。1947年にアフリカ・ウガンダのジカの森のアカゲザルからジカウイルスが見つかった。アフリカの風土病だった感染症が、航空機などの発達で世界に広がっている。発熱や頭痛などかぜによく似た症状が出る。これらの症状は軽く、7日以内で治る。8割の人は症状も出ない。その意味では恐れる必要のない感染症だろう。
 ただし生まれてくる子供に大敵となる可能性がある。脳の発達が遅れて障害が残る小頭症との関連が大きな問題になっている。ブラジルでは昨年5月の感染確認以来、4000件を超える小頭症児の出産が報告されている。
 ワクチンや特効薬はない。流行地域の蚊に刺されないことが一番の予防で、治療も対症療法となる。これまでアフリカやアジアで流行していたが、ブラジルでの感染確認以降、中南米を中心に約30カ国に感染が拡大した。WHOは今後1年間に中南米だけで感染者が400万人に増える可能性があると警告している。
 いまのところ日本国内での感染はないが、川崎市の高校生のように海外で感染して帰国後に確認された事例は過去にもある。厚生労働省は全国の検疫所や保健所でジカウイルスが検査できる体制を整えるとともに、ジカ熱を医師に届け出を義務付ける感染症法の4類感染症に指定した。
 ところで考えたいのが、公衆衛生上の緊急事態宣言を出したWHOの対応である。
 感染症の知識が少しでもあれば「大半の人が軽い症状で済むというのにエボラ出血熱と同じ緊急事態は大げさだし、緊急事態宣言が深刻な風評被害を招きかねない」と思うだろう。
 WHOは2月1日に専門家による緊急委員会の電話会議を開いて協議。その結果、妊婦の感染と小頭症の因果関係が「科学的に証明されていないが、強く疑われる」という点で意見が一致し、宣言を出すことを決めたという。