▶ 2016年4月号 目次

<ジャーナリストをめざす若い人へ> 映画 スポットライト 世紀のスクープ

陸井 叡


 今年のアカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞したアメリカ映画「スポットライト 世紀のスクープ」は"ジャーナリスト映画"でもある。メッセージ@penでは、主としてジャーナリストをめざす若い人向けに、これから一年をめどに毎月一本程度リポートを掲載して行きたいと思う。今回は、今月4月公開予定の「スポットライト 世紀のスクープ」の試写会場からお伝えする。

 物語は、2001年7月アメリカ東部の町ボストンの地元紙、ボストン・グローブの編集局長室から始まる。編集局長マーティ・バロンが、話し始めた。「インターネットに負けない読み応えのある記事が欲しい」。アメリカでは既に新聞をインターネットが脅かしつつあった。バロンは、ユダヤ系、新任としてマイアミからやって来たばかり。その日が初めての編集会議だった。だがバロンの提案は、更に具体的だった。
「ボストンのカトリック教会で神父による子どもへのいたずらが絶えない。しかも、教会が組織ぐるみで隠蔽している。特集記事として特に教会の関与を暴いて欲しい」というものだった。
 ボストンはアメリカ大リーグ野球の有力チーム「ボストン・レッドソックス」の本拠地として日本では有名だが、実は、地域に長く根ざしたカトリック教会が強大な権力機構として存在する町でもあった。そしてボストン・グローブ紙の定期購読者の53%がカトリック教徒だったから特集コーナー「スポットライト」担当チームは驚いた。古参の編集幹部から強い反対意見が出た。
 だが、取材に取り掛かると、いたずらを受け成人した1人の被害者が重い口を開く。ボストンには性的虐待を繰り返す神父が13人はいて、精神障害や自殺に追い込まれた子供もいる。しかも、貧しい家庭の子供ほど神父を信じ毒牙にかかってしまうという生々しい証言だった。ここから「スポットライト」チームの記者3人とデスク合わせて4人の取材が本格化し、カトリック教会の執拗な取材妨害を粘り強く跳ね返して行く。そして、半年後の2002年1月、ボストン・グローブ紙はカトリック教会の神父数十人が子供への性的虐待を繰り返し、その被害者は1000人を超えること、しかも、教会が神父を組織的に庇っていた事をスクープした。特ダネを伝えるボストン・グローブ紙を満載したトラック群が深夜の町へと次々に出て行くシーンは"新聞全盛時代"を彷彿させて圧巻である。記事の反響は世界各地のカトリック教会に広がり、バチカンも動かした。